I found this

サラリーマンがネットで見つけたネタに対する感想

リチウムイオン電池の次はどんな次世代電池になるのか

現代の生活に欠かせない存在となったスマートフォンや日本の主要産業である自動車業界に押し寄せるEV化の波。さらにはドローンやスマートウォッチなど現在から将来にかけて身の回りのあらゆる物のエネルギー源になるであろう技術がバッテリーです。

しかし電気自動車は航続距離の短さが指摘されていますし、スマートウォッチはほぼ毎日充電する必要があるのが欠点です。これらの問題を解決するには、バッテリーの進化が欠かせません。

 

バッテリーの性能問題はかなり歴史が長く、1914年のニューヨークタイムズの記事で自動車王ヘンリー・フォードは、1年ほどしたら電気自動車の製造を始められるだろうとし、実験車両は製作済みで成功は間違いないが、課題はトーマス・エジソンが取り組んでいる長距離走行に耐える軽いバッテリーの完成だ、と話していたそうです。

結果はご存知の通り、フォードとエジソンが20世紀初頭に取り組んでいた電気自動車のバッテリー問題はその後100年経った今でも完全には解決していません。

 

では将来的にどの程度までバッテリー技術は進化するのでしょうか。

 

 

軽くてたくさん使える電池

今、世界が求めているのは、たくさんの電気エネルギーを小さくて軽いバッテリーから取り出すことですから、重さあたりどれくらいエネルギーを蓄えられるかで性能は判断できます。

この指標で大まかに言えば現状でも1990年代に比べて2倍程度のエネルギーを同じ重さのバッテリーから取り出せるようになっているようです。

 

例えば、21世紀に間に合いましたといって発売されたトヨタの初代プリウスに使われていたニッケル水素電池の重さあたりのエネルギー密度は70[Wh/kg]と言われていましたが、100%バッテリーだけで駆動する電気自動車の先駆け、初代日産リーフに使われたリチウムイオン電池は150[Wh/kg]を超えていました。そしてパナソニックとテスラがアメリカのネバダ州に建設したギガファクトリーと呼ばれる工場で共同生産している最新のリチウムイオン電池は、300[Wh/kg]近くに達しているとも言われています。

 

ではこの進歩はずっと続くのかというともちろん物理的な限界はあります。

現在のリチウムイオン電池の構造であれば、理論限界が500[wh/kg]代後半と考えられるので限界は近づきつつあります。

 

 

未来の電池

限界が近いリチウムイオン電池の次に考えられるのは一体どんなバッテリーなのでしょうか。

まずバッテリーの基本原理ですが、一言で言ってしまえば電子を欲しがっている物質と電子を手放したがっている物質を導線でつないで、両者の間で電子を移動させるという仕組みです。電子の移動とは電流のことですから、これでEVやスマホが動かせます。ですから、次世代電池も電子を欲しがっている物質と手放したがっている物質から良さそうなものを選ぶしかありません。

 

ここで、中学校で習う元素の周期表を見てみましょう。昔の頭の良い人が考えた周期表というものは、元素の性質が似ているものが表にキレイに並ぶように出来ています。次世代電池のヒントもここから見えてきます。

Periodic table

周期表は左上から元素が軽い順番に書かれているので、できるだけ上の方にあるものを使えば軽くできます。そして電子を欲しがっている元素は、表の左側の方に。手放したがっている元素は右の方に書かれています。

ということで左側からは全元素中3番目に軽く金属では最も軽いLi(リチウム)が候補に上がります。また、周期表で一つ下のNa(ナトリウム)も、特性としてはリチウムに負けますが海水から取れるため安く量産化するという意味では注目される物質です。

右側はというと、一番右の列は電子をあげたくもないし欲しくもない安定した元素ですのでそれらを除くとF(フッ素)やO(酸素)が理想的ということになります。

 

では、これらを使うとどの程度バッテリーは進化するのでしょうか。

まずは、周期表上で限界となる端と端にいるLi(リチウム)とF(フッ素)ですが、反応が激しくロケット燃料にも使われる組み合わせで、バッテリーとしての実現性は低いようです。それでも理論的には6000[Wh/kg]というエネルギー密度が可能なようです。

他の組み合わせは、リチウム空気電池(Li-O2)です。Li(リチウム)とO(酸素)という周期表上のほぼ両端にある物質同士で理論的な限界に近い組み合わせです。この組み合わせで理論上は約2700[Wh/kg]程度のエネルギー密度まで高められると言われています。

ここで紹介している理論上のエネルギー密度というものは、調べると情報ソースによってかなり色々な数字が出てきますが、それでもリチウム空気電池が実現すれば現在のリチウムイオン電池より重さが半分で3倍長持ちのバッテリーといったレベルは十分可能性がありそうです。

 

 

  

さて、スマートフォンや電気自動車を実現可能にした革新的な電池であったリチウムイオン電池は、日本のソニーが世界で初めて商業的量産化に成功した技術でした。

リチウム空気電池を最初に量産化するのは誰になるのでしょうか。

 

 

 

 

 

Reference;

Minutes physics:https://youtu.be/AdPqWv-eVIc

Energy & environmental science:https://www.fkit.unizg.hr/_download/repository/Electrical_energy_storage_for_transportation-_lithium-ion_batteries.pdf

 

映画アルマゲドンは現実的なのか。地球に衝突する巨大隕石を止める方法

恐竜絶滅の原因として有力視されているのが巨大隕石の衝突ですが、映画「アルマゲドン」や「ディープインパクト」などでは隕石が地球に衝突して人類が滅亡するという話が描かれています。

実際に、地球に巨大隕石が衝突したらどうなるのでしょう。

バリンジャークレーター

アメリカ合衆国アリゾナ州のバリンジャークレーター

 

 

隕石の衝突事例

1908年、ロシアのツングースカに落ちた隕石は記録に残っているものでは最大の大きさで、隕石の直径は推定60から190メートルもあったと考えられており、そのエネルギーは凄まじく周囲2000平方キロメートルもの広範囲で木をなぎ倒したとされます。この時は、シベリアの奥地で人が全く住んでいないエリアだったため死傷者などの被害は出ていません。

 

1954年、正確な記録が残っている人に対する隕石による最初の被害が起こります。アメリカのアラバマ州に住むアン・ホッジスさんが家で昼寝をしていたところ、家の屋根を突き破って体に3グラムの隕石が衝突し打撲を負ったのです。幸いホッジスさんは怪我を負ったものの無事で、この事故は当時世界中でニュースになったと言います。

 

2013年にはロシアのチェリャビンスクで、歴史上初めて隕石による大規模被害が起こっています。この時の隕石は、地球に衝突する前に燃えながら太陽よりも明るく輝き100キロ離れた場所からでも見えたと言います。サイズは直径20メートル程度と推定されます。被害としては、7000棟の建物の窓ガラスなどの破損と1500人以上のケガ人を出しました。

 

しかし問題は、誰もこの隕石が地球に衝突することを事前に発見できていなかったことです。映画のように、事前に地球に衝突する小惑星を発見して勇敢な宇宙飛行士たちが地球を救うというストーリーは現実にはありえないのでしょうか。

 

 

宇宙を監視する組織

実はNASAには、Planetary Defence Coordination Officeという、意訳すると地球防衛部とでも言いましょうか、地球に接近する小惑星を監視する専門の部署が2016年に開設されています。NASA単独では限界があるので世界中の宇宙関連機関と連携して地球周辺を監視し、もし地球に衝突する可能性のある小惑星が見つかれば地球への衝突を回避するのが役割です。 

仮に隕石の直径が100m以上、つまりサッカーコートほどあれば地球に衝突した際の破壊力は核爆弾級になります。現在このサイズの小惑星が地球の周辺に数千はあるとみられています。NASAは1998年以来こうした小惑星のカタログを作ってそれぞれの軌道を監視しています。現在は、地球が太陽の周りを回る軌道と重なっている小惑星で、直径が1kmを超えるものについて90%以上が監視されており、新しい小惑星が見つかれば軌道を計算して地球に衝突する可能性があるかどうかを判断します。

危険度はトリノスケール(Torino scale)という0から10までの数字で表されます。0は問題なし。反対に最高の10になると、衝突はほぼ確実で地球規模の気候変動により人類の存亡に関わるというものです。

トリノスケール

トリノスケール

 

ちなみにこれまで最高に危険だった小惑星でもトリノスケールで4です。2029年に地球に衝突するとされたこの小惑星も、その後の継続的な監視から地球への衝突の可能性はないことがわかりました。

 

では、地球に衝突することが確実な小惑星が見つかったらそれをどうやって阻止するのでしょうか。

 

 

小惑星の止め方

山ほどの大きさがあり弾丸並みのスピードで地球に向かってくる小惑星を止めるのは現実的ではありません。現実的なのは軌道をそらすことです。

地球は、秒速30キロメートルで太陽の周りを回っています。宇宙のある一点で見ると、地球は7分でその場からいなくなるのです。巨大小惑星の地球への衝突を回避するには、接近を7分遅らせるか早めれば十分ということになります。衝突の十年以上前なら軌道を数センチずらせれば十分衝突を回避できるのです。

 

実際に小惑星の軌道を修正する方法としてすぐに思いつくのは映画でもよく使われる核爆弾です。「アルマゲドン」でも「ディープインパクト」でも人類は核爆弾で小惑星の衝突を阻止しようとします。

他には、宇宙船か人工衛星を当てるということも検討されており、実際にNASAは2005年にディープインパクト計画として地球の軌道と関係のない小惑星で衝突実験を行ったことがあり、有力な方法として検討されていることがわかります。

ディープインパクト計画

ディープインパクト計画で小惑星の軌道が修正された様子

 

 

しかし、小惑星は必ずしも硬い物質でできているとは限りません。衝撃が吸収されてしまうことも考えられます。

 

そこで、映画にはまず登場しないのが次のような方法です。

一つ目は、宇宙船か人工衛星を小惑星の近くで飛行させるというものです。どういう仕組みかというと、質量のあるものが小惑星の近くにあればお互いの引力で軌道が変わるというわけです。この方法で小惑星の軌道を変えるには数年か場合によっては数十年かかるかもしれません。映画で使うには地味すぎる方法です。

Gravity tractor

 

他には、小惑星を白く塗るか黒く塗るという方法も考えられています。白く塗れば太陽の光を反射し、黒く塗れば吸収します。これにより太陽光の力で軌道を修正するというアイデアです。

 

 

さて、派手な方法から地味な方法まで巨大隕石の地球への衝突を回避する方法がいろいろあるのはいいことですが、そもそも衝突した場合に核爆弾級の破壊力を持つ小惑星が実はいつ落ちてくるかわからないというのは何とも恐ろしい気がします。

つい映画の影響でそういった小惑星は衝突前にわかるものだと思いがちですが、まだまだ人類は宇宙に比べればちっぽけな存在であることを思い知らされます。

 

 

 

 

Reference;

The good stuff:https://youtu.be/L6db5cMabbE

Vox:https://youtu.be/EZSCtgfmEO0

世界に似ている国旗が多い理由

オリンピックやワールドカップなど世界的な大会が開かれるたびに、国旗の見分けがつかないと感じることはないでしょうか。とにかくそっくりな国旗が多いのです。

例えば、下にある二つの国旗。どちらがインドネシアでどちらがポーランドか一発でわかる人はかなりの国旗通と言えます。

f:id:T_e_a:20171216101041p:plain

インドネシア国旗
 

f:id:T_e_a:20171216101057p:plain

ポーランド国旗 

 

ちなみに、モナコ公国の国旗はこれです。

f:id:T_e_a:20171216101127p:plain

 

このように、世界には似たような国旗が溢れています。44ヶ国の国旗は3色の水平模様ベースで、10ヶ国が国旗の左側に1つ星を置いており、赤も青も使っていないのはたったの11ヶ国だけです。

 

では、そっくりな国旗が多いのはなぜか。

そもそも、国旗とはその国を象徴するシンボルです。つまり、似たような国は似たようなシンボルを掲げることになりやすいということが挙げられます。

例としては、ともに共産主義国の中国とベトナムでしょう。

f:id:T_e_a:20171216101649p:plain

中国の国旗

 

f:id:T_e_a:20171216101700p:plain

ベトナムの国旗 

 

 

中東

共産主義国よりももっと数が多いのはアラブ諸国です。

第一次世界大戦の際にアラブ人の独立と国家樹立を目指したアラブ反乱の際に使われた反乱旗は、そのままアラブ諸国の国旗のモデルとなりました。そしてエジプト、イラク、クウェート、スーダン、シリア、UAE、パレスチナ、イエメン、ソマリア、リビアの10ヶ国が、国として共通のバックグラウンドからよく似た国旗を使っています。

f:id:T_e_a:20171217000417p:plain

エジプト国旗

 

f:id:T_e_a:20171216102328p:plain

イラク国旗

 

f:id:T_e_a:20171217000443p:plain

シリア国旗

 

f:id:T_e_a:20171217000503p:plain

パレスチナ国旗

 

f:id:T_e_a:20171216133315p:plain

スーダン国旗

 

 

また、中東や北アフリカ周辺で旧オスマン帝国を形成していたトルコやチュニジア、アルジェリア、リビア、アゼルバイジャンなどが、国旗にイスラムのシンボルである三日月をもっています。

f:id:T_e_a:20171216133737p:plain

トルコ国旗

 

f:id:T_e_a:20171216133749p:plain

チュニジア国旗

 

f:id:T_e_a:20171216144959p:plain 

アルジェリア国旗

 

f:id:T_e_a:20171217000526p:plain

リビア国旗

 

 

大英帝国

共通のバックグラウンドという意味では、イギリスの植民地があります。

旧イギリスの植民地は国旗の左上にイギリスのユニオンジャックがあり、実に23ヶ国が国旗の左上にユニオンジャックを持っています。

例えば、ケイマン諸島が次のような国旗です。

f:id:T_e_a:20171217000553p:plain

 

 

中でも厄介なのはオーストラリアとニュージーランドで、あまりにも間違えられることが多いため、ニュージーランドでは国旗を変更するかどうかの国民投票が行われたことすらあります。

f:id:T_e_a:20171216134432p:plain

オーストラリア国旗

 

f:id:T_e_a:20171217000610p:plain

ニュージーランド国旗

 

 

ちなみに、同じくイギリスの植民地だったアメリカの国旗にも以前はやはり左上にユニオンジャックが付いていました。

f:id:T_e_a:20171217000633p:plain

アメリカの古い国旗

 

 

 

 

ヨーロッパ

ある国が始めたことを周りの国が真似したという例もあります。

北欧ではデンマークが、最初に十字をベースにした国旗を作りました。すると隣国のスウェーデンが追従し、後を追うようにフィンランド、ノルウェー、アイスランドも十字の国旗を作ったため北欧諸国は十字の国旗だらけとなりました。

 

f:id:T_e_a:20171217000651p:plain

デンマーク国旗

 

f:id:T_e_a:20171216135129p:plain

スウェーデン国旗

 

f:id:T_e_a:20171217001700p:plain

フィンランド国旗

 

f:id:T_e_a:20171217000709p:plain

ノルウェー国旗

 

f:id:T_e_a:20171217001641p:plain

アイスランド国旗

 

 

大陸ヨーロッパでは、フランス革命で民主主義が誕生した際に有名なトリコロールの国旗も誕生しました。この3色のデザインは自由と民主主義の象徴としてヨーロッパに広がりました。ご存知の通りヨーロッパは縦横3色の国旗で溢れています。

f:id:T_e_a:20171216135724p:plain

フランス国旗

 

f:id:T_e_a:20171216135739p:plain

イタリア国旗

 

f:id:T_e_a:20171216135751p:plain

ベルギー国旗

 

f:id:T_e_a:20171216135808p:plain

ドイツ国旗

 

f:id:T_e_a:20171216135829p:plain

オランダ国旗

 

f:id:T_e_a:20171217000739p:plain

ハンガリー国旗

 

 

アフリカ

同じく理念が広がった例としてアフリカで見られるのが、パンアフリカン主義に基づく国旗です。

アフリカで最後までヨーロッパの植民地支配を受けていなかったエチオピアの国旗をアフリカ独立の象徴として赤・黄・緑をベースとした国旗が多数あります。

f:id:T_e_a:20171216140530p:plain

エチオピア国旗

 

f:id:T_e_a:20171216140542p:plain

カメルーン国旗

 

f:id:T_e_a:20171216140616p:plain

セネガル国旗

 

f:id:T_e_a:20171216231921p:plain

ガーナ国旗

 

f:id:T_e_a:20171216232017p:plain

コンゴ国旗

 

 

中南米

中南米でも独立運動と国旗は深く関わっています。

まず、ホンジュラス、グアテマラ、エルサルバドル、ニカラグアの4ヶ国は、かつて中央アメリカ連邦共和国という一つの国だったものがバラバラになったため、もともとの国旗をモデルにして似たようなデザインを共有しています。

f:id:T_e_a:20171217000814p:plain

ホンジュラス国旗

 

f:id:T_e_a:20171217000831p:plain

グアテマラ国旗

 

f:id:T_e_a:20171217000900p:plain

エルサルバドル国旗

 

f:id:T_e_a:20171216230025p:plain

ニカラグア国旗

 

 

同じく、南米のコロンビア、エクアドル、ベネズエラは、かつてグランコロンビアという一つの国だったため、やはりそっくりな国旗です。

f:id:T_e_a:20171217001743p:plain

コロンビア国旗

 

f:id:T_e_a:20171216230534p:plain

エクアドル国旗

 

f:id:T_e_a:20171216230552p:plain

ベネズエラ国旗

 

 

 

日本 

さて、最初に紹介したインドネシア、ポーランド、モナコはなぜ国旗が似ているのでしょうか。これはシンプルなデザインだから似てしまった例です。

他にはシンプルといえば日本の国旗も白地に赤丸というシンプルな美しさがありますが、当然似た国旗があります。

f:id:T_e_a:20171216231151p:plain

一番有名なのはバングラデシュでしょう。日本の白地に赤丸に対して、バングラデシュは緑地に赤丸です。

f:id:T_e_a:20171217001802p:plain

 

そしてデンマーク領グリーンランドは、日の丸と同じ赤と白ですが上下半分づつの色使いという点が違います。

f:id:T_e_a:20171217001818p:plain

 

最後にパラオ。日の丸が太陽を表しているのに対して、パラオの国旗は月を表しています。

f:id:T_e_a:20171216231108p:plain

 

 

 

 

このように、そっくりな国旗はたいていの場合隣り合っている国同士なので、余計にどこの国だか見分けがつきにくいのです。

もうこれは覚えられないということで、諦めるしかなさそうです。

 

 

 

 

 

Reference;

KnowledgeHub:https://youtu.be/XfOTnkGyV-c

PolyMatter:https://youtu.be/6HWfE3tlXIM

若者と子育て世代は知っておきたい 2050年までに世界で起こること

2020年の東京オリンピックに向けて、外国人観光客受け入れの準備や前回の東京オリンピックに向けて作られ老朽化したインフラの更新などが行われている日本。

逆に言えば、何かと2020年に向けてあらゆる事が動いている現在の日本でもあります。

しかし大人たちは2020年のお祭りを楽しめればそれでいいかもしれませんが、これから進学先や就職先を決める若者や現在子供を育てている世代は東京オリンピック後に世界で起こることを知ってから、将来を決めても遅くないのではないでしょうか。むしろ、東京オリンピック後に世界がどうなるかの方がずっと重要です。

 

そこでここでは「Real Life Lore」が紹介している2020年以降に世界で起こることを時系列にしてみました。

youtu.be

 

 

2020年

サウジアラビアに建設中のジッダタワー(Jeddah Tower)が高さ1008メートルとなり、ドバイにあるブルジュ・ハリファを抜いて世界一背の高いビルになる。

アメリカの宇宙ベンチャーであるビゲロー・エアロスペース社(Bigelow aerospace)は、宇宙に長期滞在できる商業宇宙ステーションを建設予定。

 

2021年

インドが同国初の有人宇宙飛行を実施予定。

 

2022年

中国が独自の宇宙ステーションを建設予定。

カタールワールドカップ開催

北京冬季オリンピック開催

 

2023年

ミッキーマウスの最初期の作品の著作権が消滅。

 

2024年

Space X社が有人飛行の準備として火星に向けて物資を打ち上げ。

国際宇宙ステーションの運用終了。

 

2025年

チリにハッブル宇宙望遠鏡の10倍の解像度を持つ天体望遠鏡である巨大マゼラン望遠鏡が完成。

イギリスが石炭発電を終了。

 

2026年

Space X社が有人火星飛行実施。

NASAが小惑星への有人飛行を実施。

1882年に建設が始まったサグラダファミリアがついに完成。

 

2027年

前年に打ち上げられたSpace X社の有人宇宙船が火星に到着。

 

2030年代

NASAが火星有人飛行を実施予定。

中国が月面有人飛行を実施予定。

 

2031年

ロシアが月面有人飛行を実施予定。

 

2036年

スティーブン・ホーキング博士やFacebookのマーク・ザッカーバーグらも支援しているブレークスルー・スターショットが、レーザーで光速の20%まで加速させた人工衛星を太陽系から最も近い恒星があるケンタウルス座星系に飛ばす予定。

 

2037年

夏に北極の流氷が初めて完全に無くなる。

 

2040年

イギリスとフランスがガソリン車とディーゼル車の販売を禁止。

 

2042年

世界人口が90億人を突破。

アメリカ国内で白人が少数派になる。

個人資産100兆円の人物が現れる。

 

2044年

ロードオブザリングとホビットが著作権切れになる。

 

2045年

シンギュラリティが起こり、AIが人間の知能を超える。

 

2050年

アマゾンの森林の半分が消滅。

世界人口の70%が都市に住む。

世界人口の半数は清潔な飲み水にアクセスできない。

世界の平均寿命が76歳になる。

 

 

 

 

いかがでしょう。

ここにピックアップされていることだけみても、世界は今とはかなり異なるものになりそうです。

これらを踏まえて、将来設計をしてみるのもいいのではないでしょうか。

 

 

 

空飛ぶクルマではなく地下トンネルこそ未来の交通手段になるか

これまで馬、蒸気機関、車、飛行機といった新しい交通手段を獲得するたびに人々の生活は大きく変わってきました。

そしてまた一つ、未来の交通手段がもうすぐ現実のものになろうとしています。

 

 

空飛ぶタクシー計画

ライドシェアリングサービスのUber。創業者トラヴィス・カラニック氏の辞任や個人情報流出を金銭で解決しようとしていた事実がリークしたり、ソフトバンクによる出資など話題がつきませんが、本業で注目すべきなのはNASAと提携して進めている空飛ぶタクシー計画であるUber Airでしょう。Uberは既にUber Elevateという空飛ぶタクシー計画を発表していましたが、NASAとの提携でさらに計画実現に一歩近づいた印象です。

Uberが進める空飛ぶタクシー計画は、eVTOLと呼ばれる電動の垂直離着陸機でビルの屋上などから空港へ、空を飛んで短時間で移動するというものです。

既にテキサス州ダラスとアラブ首長国連邦のドバイで2020年までにテスト飛行を行うと発表していましたが、NASAとの提携に合わせてロサンゼルスも計画に加わりました。

youtu.be

 

コンセプト映像の通りになるとすれば、近未来SF映画で見た世界がもうすぐそこまで来ているわけですね。

ところが未来の交通手段について、ある人物は別の見方をしているようです。

 

 

地下トンネル網計画

未来の交通手段は空飛ぶタクシーではないと主張している人物がイーロン・マスク氏です。オンライン決済サービスであるペイパルの前身にあたる会社を立ち上げ、電気自動車のテスラや民間ロケット会社スペースXなどを率いる実業家ですが、大学時代の専攻は物理学であり今でも多くのプロジェクトでは彼自身がチーフエンジニアを務めているほど正真正銘科学技術に精通している実業家です。

そんなマスク氏が、新たに立ち上げた会社がトンネル掘削会社でその名もボーリングカンパニー(Boring company)。

ボーリングとは、掘削技術でもありますが英語の「退屈な」という意味もあるので、ボーリングカンパニーとは掘削会社とも取れるし退屈な会社とも取れます。どうやらこの会社は実業というよりは趣味に近いようです。

彼がボーリングカンパニーで取り組もうとしている未来の移動手段も、コンセプト映像として公開されています。

youtu.be

 

基本的なコンセプトは、地下に立体的にトンネルを掘って、そこをスケートボードのようなものに乗った車が移動するというものです。

公道とトンネルはエレベーターで結ばれ、トンネル内では時速200kmほどで移動することを想定しているそうです。

 

空飛ぶクルマの問題点

なぜ地下トンネルでの移動網を構想しているのか、彼は空飛ぶタクシーの問題を以下のように指摘しています。

 

基本的に地上よりも地下の方がスペースがある。実際世界一深い鉱山は、世界一高いビルよりも背が高い。

空飛ぶクルマは騒音が大きい。

飛行するために生じる風が強い。

何より、頭の上を無数のクルマが飛んでいたら不安でしょうがない。

 

 

特に最後にマスク氏が指摘する通り安全性は問題でしょう。以前当ブログでも紹介した70年代ニューヨークにあったヘリコプターシャトル便の例も、パンナムビルの屋上からJFK空港まで渋滞を避けて空を飛ぶUber Airと全く同じコンセプトでした。ところがある日事故で死傷者が出て、ニューヨーク上空は飛行禁止になってしまったのです。

空飛ぶタクシーはまず安全性を証明できなければ、無数の機体が人々の頭上を飛び交う商用サービスを開始するのは難しいでしょう。

 

地下トンネル網の実現性

しかし一方で、地下に穴を掘るのは巨額の費用が必要ではないのか、という疑問が湧きます。今でも地下鉄や自動車用トンネルの工事には巨額の費用がかかっていて巨大な交通ネットワークを地下に構築するというのはあまり経済的とは思えません。

 

この点に関してはイーロン・マスク氏自身も、例えばロサンゼルスで地下鉄を1マイル延長するには約100万ドルかかっていて、しかもこれは世界一高い例ではないとしてトンネルを掘る費用は課題であると考えているようです。また地下トンネル網の実現には、費用を10分の1程度にする必要があると認めています。 

そこでマスク氏は、どうやって費用を10分の1にするか以下のような道筋を立てているそうです。

まず、トンネルの大きさは車が乗るスケートが通れるだけの大きさにして、通常のトンネルより直径を半分かそれ以下にする。つまり断面積を4分の1以下にするといいます。また、現状のトンネル工事は、地面を掘ってはそこに壁を作るという手順を繰り返して掘削を進めており、この二つを同時進行できるような掘削機を作れば2倍の効率になるとしています。ここまでで、トンネルの断面積4分の1に掘削効率2倍で、理論上の掘削費用は8分の1になっています。さらに、トンネル掘削機自体の効率も今より上げられるはずとして、10分の1達成の手段を説明しています。

このように、イーロン・マスク氏の突拍子もない計画は、たいてい物理的にギリギリ可能であるところが興味深い点です。荒唐無稽に思える計画も必ずフューチャリストの未来予想とは一線を画しています。

未来

 

さて、近未来SF映画でも基本的に移動手段は空を飛ぶ乗り物であって、地下のトンネル網を移動するという描写はそれほど見かけません。

現実にやってくる近未来の移動手段は、空飛ぶクルマと地下トンネルのどちらになるのでしょうか。今後も両社の計画から目が離せません。

 

 

 

 

 

Reference;

TED:https://youtu.be/zIwLWfaAg-8

アクション映画がつまらなくなった6つの理由

YouTubeで映画レビューをしているChris Stuckmannさんのチャンネルに、現代アクション映画の問題点という動画がありました。

内容に全面的に賛成なことと彼自身がこの意見を広めて欲しいと言っているので、ざっと要点を紹介したいと思います。

youtu.be

 

 

最近のアクション映画が興行的にも内容的にも失敗している主な理由として、彼があげているのは次の6つです。

 

 

1.ストーリー

悪党が世界を滅ぼすというストーリーはいい加減みんな見飽きている。

ストーリーで成功している例はキアヌ・リーブス主演の「スピード」。バスの速度を落とすと仕掛けられた爆弾が爆発するという分かりやすい設定で、2時間の間ずっとスリル満点。主人公は一瞬たりとも気が抜けないから、観客はずっと興奮して映画を観ていられる。

同じくキアヌ主演の「マトリックス」は、アクションシーンだけではなく我々の知っている世界が仮想上にあるというストーリーでも観客を驚かせた。

「レイダース」では、ナチスが失われたアークを探していてハリソン・フォード演じるインディー・ジョーンズも同じものを追っている。この設定で主人公は常に行動し続けることになり、一瞬たりとも話が止まらない。 

もし、ストーリーが早いペースで進まないなら、アクション映画として何かが間違ってる。

 

 

2.ヒーロー

アクション映画には観客が感情移入できる主人公が不可欠。成功例は、ブルース・ウィリス主演「ダイハード」の主人公であるジョン・マクレーン。彼は奥さんとヨリを戻そうとしている男で、ただ運悪く事件に巻き込まれた人。だから本格的にストーリーが始まると彼の成功を観客みんなが願う。

ジョン・マクレーンは、ダイハード1から4まで愛すべきバカ野郎だった。それがダイハード5では通行人を殴るような、ただのバカ野郎になっている。人を気遣う警官というヒーローを失ってダイハード5は大失敗だった。

 

 

3.ヴィラン

映画は悪役の良さ以上には良くならない。そして素晴らしい悪役はヒーローの対極にあるが一点だけつながりを持っている。

成功例は「ターミネーター2」のT1000。アーノルド・シュワルツェネッガー演じるT800と同じターミネーターだが、液体金属でできたT1000の方が力が上。だからヒーローに本気で立ちはだかる存在になる。

もう一つ重要なことはモチベーションが理解できるということ。ただ単にお金が欲しいとかではダメ。「007 カジノロワイヤル」の悪役ルシーフは、投資に失敗して組織に命を狙われているからどんな事をしてでもお金が必要なのが理解できる。悪役であっても人間性が見えるということ。イスに座って猫を撫でてる謎の組織のボスではない。

究極の悪役であるスターウォーズのダースベイダー。彼もルークとの接点やどうして彼がダースベイダーになったのかという点で人間性がある。

 

 

4.スタント

スタントなしのアクション映画など考えられない。

ここでキャスティングは非常に重要。

好例はトム・クルーズ。「ミッションインポッシブル」のスタントで高評価を得て以降徐々にスケールアップして、もはやアメリカのジャッキー・チェンになった。「ゴーストプロトコル」では実際に彼自身が世界一の高層ビルであるブルジュ・ハリファで宙吊りになって撮影している。実際にトム自身がやっているから観客も手に汗握る。

もちろん危険なことをするだけが全てではない。

ハリソン・フォードキアヌ・リーブスは、体の動きを使った演技であるフィジカルアクティングが上手い。カット割りなどでごまかす必要がないので観客はストレスなくアクションを楽しめる。

 

 

5.カメラワーク

カメラワークの問題点は、シェイキーカムと言われる画面がコンスタントに揺れる撮影手法でこれが何故か流行っている。ゆらゆら揺れてはっきり見えない映像に音響を入れて、安易に何かが起こっているかの様に見せかける騙し手法。多くは役者がアクションシーンに対応できないことを隠すために使っている。

「ボーンアルティメイタム」が成功したのはシェイキーカムをなにかを隠すために使っていないから。マット・デイモンや他の役者が相当な訓練を積んでいるし、編集が絶妙。「マトリックス」や「ジョンウィック」なども、ワイドショットで何が起こってるか観客にはっきり見せている。

ただし、役者が訓練しすぎるのには危険性もある。特定の動きを訓練し過ぎてダンスの様になってしまうことがある。

スターウォーズエピソード3でのユアン・マクレガーヘイデン・クリステンセンライトセーバーバトルは美しすぎて危険な戦いには見えない。

 

 

6.ヒーローの弱さ

良いアクション映画の条件として最も重要なこと。

例えば、スカーレット・ヨハンソン主演の「ルーシー」。映画は見ごたえがあるが、主人公が覚醒して以降は誰も彼女に太刀打ち出来ないのでアクションシーンに何の緊張感も生まれない。

ヒーローが生き残れるかどうか分からない、というのが必要。

マトリックス」と「マトリックス リローデッド」はいい比較になる。「マトリックス」ではバトルシーンはリアルで主人公ネオは血を吐き本当に勝てるのか観客は疑いはじめる。「リローデッド」では、ネオは無敵の存在で人形みたいなエージェントスミスを次々と吹き飛ばし何の危険も感じない。

 

では「レイダース」のトラックシーンはなぜ完璧なのか。

インディージョーンズは腕を撃たれて、悪役の兵隊にトラックから落とされそうになる。劇中でヒーローが最も弱っているシーン。素晴らしいアクション映画には必ずと言っていいほどこうした主人公が危険にさらされるシーンがある。だからその後で主人公が状況を好転させて悪役をやっつけると観客はスッキリする。

インディージョーンズ最後の聖戦」にも「魔宮の伝説」にもこういったシーンがあるが、「クリスタルスカルの王国」には全く無い。だから「インディージョーンズ4」は成功できなかった。

 

 

 

 

いかがでしょう。

もちろん映画はアートでありエンターテインメントでありビジネスでもあるので、内容をどう捉えようと人の勝手です。正解も不正解もありません。この中で悪い例としてあげられた映画が好きな人もいるでしょう。それで全く問題はありません。

しかし、ここにあげられた6つのポイントはかなり的を得ていると思います。

 

客層が近いジャンルとしてアメコミヒーロー映画が近年絶好調ですが、伝統的なアクション映画の復活も是非期待したいところです。

 

 

 

打ちやすいからではない キーボードの配列がQWERTYになった理由

みなさんが使っているパソコンのキーボードは、特殊な例を除けば左上から順にQWERTYの並びになっていると思います。現在事実上の標準キーボードになっているこのタイプは、QWERTYの並びをそのまま読んで通称クワーティキーボードです。

キーボード

キーボードがなぜこの並びなのか、一番有名な説はタイプライター時代にはキーを一つずつしか押せなかったために、連続して打つ可能性のあるアルファベットは離して配置したというものです。しかし、英語のアルファベットをキーが引っかからないように並べるやり方は無数に考えられ、QWERTYの配列になった理由を完全に説明しているとは言い難いです。

また、ある説では一番上の行だけでタイプライター(Typewriter)と打てるようにしたなどとも言われますが、残りの配列をどうやって決めたのか、なぜ一番上の一行でタイプライターと打つ必要があるのか全く意味不明です。

 

 

QWERTYの誕生

実は、タイプライター創世記の1840年から1890年頃までには、いろいろなタイプのキーボードが混在していたのです。そして現在世界中で使われているQWERTY配列は標準化団体などで仕様が策定されたわけではなく、1870年代にたった一人の人物によって考案されました。

 

 

例えば最初期の1840年代にHughes printing telegraphという電信機では、ピアノ型のキーボードにアルファベットが並べられていました。

ヒューズプリンティングテレグラフ

 

また1865年のHansen writing ballというタイプライターでは、半球状にボタンが並べられており、それを押す仕組みが採用されていました。

ハンセンのライティングボール

 

 

1873年、ここでクリストファー・レイサム・ショールズ(Christopher Latham Sholes)という人物が、QWERTYに近いキー配列を考え出します。ピリオドとR、AとZが逆に配置されており、Mは一段上のLの右にありましたが、それ以外は現在のQWERTYと同じ配列です。そして、銃やミシンを作っていたレミントン(Remington)社がこのデザインを購入してタイプライター事業に参入するのです。

その後もショールズは1878年にさらにキー配置を少し変えて特許を取得しますが、CとXが逆で引き続きMはLの右にありました。

この直後に、ショールズからキー配列のデザインを購入してタイプライター事業に参入していたレミントン社がついに我々の知っているQWERTY配列を使ったタイプライターの販売を開始したのです。

クリストファー・レイサム・ショールズ

クリストファー・レイサム・ショールズ

 

こうしてQWERTYキーボードは誕生しますが、この時点ではまだ沢山あるキー配列の中の一つでしかありませんでした。実際1889年には、左上からXPMCHRの配列になっているタイプライターが登場します。発案者はなんとクリストファー・レイサム・ショールズ。QWERTYの発案者ですら、のちに違うキー配列を提案しているのです。

では、発案者ですら改良を続けていたQWERTYはどうやって標準キー配列になったのでしょうか。

 

 

タイプライターを作る側

アメリカに独占禁止法ができる以前の1890年代、石油会社や鉄道会社などあらゆる業界で多くの会社がトラストを形成し、市場は大企業に独占され価格などは企業側が完全にコントロールする時代でした。もちろんタイプライター業界も例外ではなく、大手のタイプライター会社は手を組んで1893年にユニオンタイプライター社としてトラストを形成します。彼らの関心ごとはコストダウンで、ユニオンタイプライター社が採用したのが最大手だったレミントン社のQWERTY配列でした。

これによりQWERTYの市場シェアは圧倒的になります。

 

タイプライターを使う側

もう一つの理由は、キーボードの使用者です。

当時のタイプライターは、現在のパソコンとは全く違い訓練を受けた人しか使えませんでした。全員タイプライター学校に通ってタイピングを習得するのです。となるとタイプライター学校は、一番広く使われているタイプライターで生徒を訓練することになります。もちろんそれはQWERTYキーボードです。

当時多くの人がQWERTYよりも早く打てるキー配列があると考えていましたが、結局QWERTYキーで訓練を受けた人はそう簡単に別の方式のタイプライターには乗り換えられませんでした。

 

 

 

さて、キーボードというとパソコンのイメージからデジタル時代の産物の様な印象がありますが、実際にはエジソンが白熱電球の特許を出すよりも前に現在と同じQWERTY配列が完成していたのですから意外です。

そしてこうしている間にも新たに人々がQWERTYキーボードでタイピングの練習を始めているのですから、QWERTYが何か別のキー配列に取って代わられるというのもしばらくは起こりそうにありません。

 

 

 

 

Reference;

Vox:https://youtu.be/c8f6us-Sjlo

ジェット旅客機はもうこれ以上速く飛べないのか

大型連休になると海外へ出かける方も多いと思いますが、海外旅行で一つのネックになってくるのはやはりフライトの所要時間です。

例えば、成田空港からハワイのホノルルまでが7時間30分。オーストラリアのシドニー9時間45分。アメリカのロサンゼルス10時間。フランスのパリ12時間30分。アメリカのニューヨーク13時間。いずれもかなりの長時間です。

一体いつになったらもっと短時間で海外に行けるようになるのか調べてみると、驚くべきことに実は飛行機のスピードは以前から全く速くなっていない事がわかりました。

 

 

ジェット旅客機の登場

世界で最初にジェットエンジンを使った旅客機は、1952年5月2日にロンドンからヨハネスブルグに向かったブリティッシュ・オーバーシーズ・エアウェイズ・コーポレーション(BOAC)のフライトに使われた英国デ・ハビランド社製のコメットという飛行機でした。

デハビランドコメット

世界初のジェット旅客機Comet

コメットはピストンエンジンを使ったプロペラ機の時代に、ジェットエンジンを導入することでフライト時間を従来の半分にすることに成功します。例えば、当時のBOACによるロンドン-東京間のフライトはそれまでの86時間から36時間になったのです。

こうして幕を開けたジェット旅客機の時代。プロペラ機の代表格であったダグラスDC-3が巡航速度時速290キロだったのに対して、ジェット旅客機コメットの巡航速度は時速740キロにも達していました。

 

そしてすぐにイギリスのコメットに対抗して、アメリカからボーイング社の707とダグラス社のDC-8がデビューします。

ボーイングが1958年に完成させた707は、36人乗りのコメットに対して4倍も多い乗客を乗せられる上に巡航速度もより高速な時速965キロで、ベストセラーになりました。また707の1年遅れでデビューした当時世界最大手のダグラス社製DC-8は、巡航速度が時速870キロでした。

  

 

全く速くならない旅客機

このように1950年代後半には900[km/h]前後の速度に達していたジェット旅客機ですが、その後全くスピードは速くなっていません。

初飛行1969年でジャンボジェットの愛称を持つボーイング747型機が、巡航速度933[km/h]。

初飛行1994年で新型政府専用機に採用される777型機が、905[km/h]。

初飛行2009年で全日空が世界で最初に導入したドリームライナーこと787型機が、913[km/h]。

ボーイングのライバルであるエアバスも総二階建てのA380型機の巡航速度907[km/h]を筆頭に、総じて900[km/h]前後なのです。

 

これは不思議な気がしないでしょうか。

例えば東海道新幹線は1964年の開業時に時速210キロだった速度が35%もスピードアップして、時速285キロにまでなっています。時速320キロに達する東北新幹線との比較であれば、50%以上もスピードアップしているのです。

同じ50年の間に、ジェット旅客機のスピードはずっと足踏み状態です。

 

 

燃費の問題

ではなぜ飛行機は全く速くならないのか。理由の一つは燃費です。

現在のジェット旅客機で主に使われているターボファンエンジンにとって音速の80%程度以下、つまり900[km/h]程度のスピードで飛ぶのが最も燃費がいいのです。それより速く飛んでも遅く飛んでも燃料の無駄になります。

燃費がいかに大切か1回のフライトにかかる費用の内訳を見てみると、ボーイング787でニューヨーク-ロンドン間を飛行した場合燃料代は200万円ほどかかりますが、機体の値段は1フライトで割ると50万円もしません。航空会社にとって燃料代は、航空機本体よりも大きな出費なのです。事実、多くの航空会社はまだ使える飛行機を買い換えてまで燃費のいい最新式の旅客機を導入しています。

ジェットエンジンの効率

ターボファン(low bypass)エンジンは音速の80%程度で最高効率となる(By Audrius Meskauskas [GFDL (http://www.gnu.org/copyleft/fdl.html)) 

 

 

音速の壁

もう一つの理由が、音速の壁です。

音速付近では空気抵抗が著しく高くなる遷音速という領域があるため、それを避けて音速の80%程度以下で飛行するか音速より遥かに速いスピードで飛行する必要があります。

現在は引退してしまいましたが、イギリスとフランスが共同開発した超音速旅客機のコンコルドも音速の2倍に当たる時速2150キロで飛行していました。

しかし、飛行機が音速を超える際にソニックブームと呼ばれる轟音が鳴る事がわかると、ほとんどの国で陸地の上空での超音速飛行は禁止されてしまったのです。こうなると超音速旅客機が使えるのは、ニューヨーク-ロンドン間のように航路のほとんどが海上の路線に限られてしまうので、超音速飛行が空の旅で主流になる道は途絶えました。

空気抵抗

音速(Mach 1.0)前後で増大する空気抵抗

 

 

 

つまり、今のジェット旅客機よりも少し速い遷音速は空気抵抗が大き過ぎて避ける必要があり、それよりもさらに速い超音速は海の上でしか使えないため、商業的に今以上の速さで旅客機を飛ばすのは難しいのです。

 

こうして海外旅行での長時間フライトは21世紀になった今でも解消する見通しはなく、今日も人々は小さい画面で映画を観ながら機内食は不味いと言って旅をスタートするのでした。

 

 

 

 

 

Reference;

Wendover Productions:https://youtu.be/n1QEj09Pe6k

Slice of MIT:https://slice.mit.edu/2014/03/19/airtravel/

Century of Flight:http://www.century-of-flight.net/new%20site/commercial/jet_liner.htm

Finding Dulcinea:http://www.findingdulcinea.com/news/on-this-day/May-June-08/On-this-Day--First-Commercial-Jet-Flight-Takes-Off-From-London.html

なぜ耳の形はこんなに複雑なのか

人間の頭のパーツの中で、耳だけがやたらと複雑な形をしていることに疑問を持ったことはないでしょうか。目、鼻、口は、その役割から考えればある程度納得のいく形をしていますが、耳はなぜこんな形なのかすぐにはピンときません。

ところが、人体は不思議なものでこれにもちゃんと理由があるのです。

耳

 

 

 

まず耳の役割は当然音を聞くことですが、ただ聞くだけではなく音のする方向を特定できることは非常に重要です。太古の昔にはこの能力がなければ人類は自然の中で生存不可能だったでしょう。

そして、人が音の聞こえる方向を特定する方法については、昔から多くの人がいろいろな考察をしています。

そのうち一人は、流体工学のベンチュリ効果を発見した人物として知られるイタリアの物理学者ジョヴァンニ・バティスタ・ベンチュリ(Giovanni Battista Venturi)です。画期的なベンチュリ効果を発見した人物にしては単純ですが、1790年代に耳を指で塞ぐという方法で音のする方向を特定するには両耳が必要という結論に至ります。そして、左右それぞれの耳で聞こえる音量が違うために人は音のする方向を特定できると考えたのです。

その他、ノーベル賞を受賞しているイギリスの物理学者ジョン・ウィリアム・ストラット(John William Strutt)は、右耳と左耳で音が届くタイミングの微妙なズレによって音源の方向が分かると考えました。また、頭が防音壁のようになって音が吸収されるため音源と反対側にある耳には高周波が届きづらい事も判断材料になっていると考えたのです。

 

結果的に現在では人はこれら全ての情報を使って音のする方向を特定していることがわかっています。

例えば頭の左方向に音源があれば、左耳の方が右耳よりも大きな音を時間的に先に捉えるので脳は音が左方向から来ていると判断するわけです。

 

 

 

しかしここで一つの疑問が生まれます。真ん中から音が来たらどうなるのでしょう。

顔の前5メートルから音が鳴るのも頭の後5メートルから音が鳴るのも上5メートルから音が鳴るのも、左右の耳は同じ音量を同じタイミングで受け取るという意味で違いがありません。

実は、これこそ耳が複雑な形をしていることに対する答えです。

もし耳がマイクのような形だったら、確かに前から音がきても後ろから音がきても聞こえ方は同じです。ところが、耳は前後にしろ上下にしろどの方向から見ても必ず違う形になっています。これによって音が来る方向が違えば耳での音の反響の仕方が変わり、鼓膜で音をとらえる際に特定の周波数が目立つようになっているのです。そして最終的には脳が周波数の特徴から判断して音がする方向を決定するわけです。

これは誰でも家で実験して確かめることが出来ます。

耳に粘土などをつけて音の反響の仕方を変えてやればいいのです。こうすると脳は耳の形が変わっていることを知る由もなく周波数の特徴だけから判断して、音のする方向を勘違いするのです。

 

 

ところで、犬が首をかしげているのを見たことはないでしょうか。

犬

もちろん人間の言葉が分からないくて首をかしげているのではありません。

実は犬がこの仕草をする一つの理由も音のする方向の特定です。首をかしげて左右の耳の位置関係を斜めにすることで、上下左右どちらの方向から音がしているかが特定しやすくなるのです。

 

 皆さんもどこからか気になる音が聞こえてきたら、犬のように首をかしげてみてはどうでしょうか。

 

 

 

Reference;

Knowing Neurons:http://knowingneurons.com/2013/03/15/how-does-the-brain-locate-sound-sources/

Acoustics Today:http://deutsch.ucsd.edu/pdf/AT-2008_4_3.pdf

SmarterEveryDay:https://youtu.be/Oai7HUqncAA

日産のカルロス・ゴーン氏が考える電気自動車が売れる理由

日本の基幹産業である自動車業界に押し寄せている一つの大きな波といえば、ガソリンなどの化石燃料を使う内燃機関から電気自動車(EV)へと移行する電動化シフトでしょう。

なかでも、いち早くEV時代の到来に備えて製品を投入していたのが日産自動車でした。最初の本格的電気自動車リーフの登場は遡ること2010年の事です。これは、ルノー・日産アライアンスを率いているカルロス・ゴーン氏の先見性によるものでしょう。トヨタやホンダなど日本を代表する自動車会社が長らくEVから少し距離を置いていたのとは対照的です。ではなぜゴーン氏は、いち早く電気自動車の可能性に投資したのでしょうか。

少し古いですが2016年のデトロイトモーターショーで開かれたQAセッションから、ゴーン氏のEVに対する考え方が読み取れます。

 

youtu.be 

経済状況などを含めていろいろな質問が出ていますが、電気自動車に関連するゴーン氏の見解部分をまとめると以下のようになるでしょう。

 

 

(これからの展望は?)

今後毎年EVなどの排気ガスを出さないゼロエミッション車に多くの自動車メーカーが参入するだろう。消費者の需要はそれほど強いとは言えないが、環境規制をクリアするのに他の選択肢があるとは思えない。ゼロエミッション車かウルトラローエミッション車が必要になる。ウルトラローエミッション車とは、プラグインハイブリッド(PHEV)のことだが、PHEVもEVにエンジンが付いている車だ。ガソリン車にモーターが付いているということではない。

 

(消費者が強く求めていないのにどうやってEVを売るのか?)

確かに複雑な問題だが、消費者は規制当局の意向を気にしている。

例えば、欧州におけるディーゼル車の例は興味深い。ヨーロッパにおけるディーゼル車はマーケットシェアが50%以上もある。しかしこれは、50%の消費者がディーゼルを求めていたから起こったことではない。ヨーロッパの各国政府が行っている規制やインセンティブが、結果的に消費者をディーゼル車に向かわせただけだ。政府や規制当局が消費者に方向性を示すことでこうなったと言える。

実際アメリカ政府はそういった規制を行っていないので、アメリカでは誰もディーゼル車を買ってない。ヨーロッパ、日本、アメリカで自動車メーカーの顔ぶれはだいたい同じだがヨーロッパでは50%がディーゼル。日本とアメリカではほぼゼロ。消費者がこの流れを作ったとは思わない。各国の規制がこの状況を作った原因だ。

そして、ヨーロッパではディーゼルに対するバッシングが始まっている。消費者はディーゼル車を買うのを止め始めた。人々は規制当局の意向を気にしている。ヨーロッパの各国政府は、ディーゼル車を減らしたいと考え始めてインセンティブを減らしている。こうなると消費者はディーゼル車を買いたくなくなる。ディーゼル車のリセールバリュー(中古として手放す時の値段)が今後下がりそうだからだ。そしてディーゼルからの移行が始まるだろう。もちろん移行にはそれなりの時間がかかる。自動車メーカー側の製品供給力にも限界があるからだ。

自動車産業は、消費者の需要だけでは語れない産業だ。環境規制や政府が目指している方向性に強く影響される。そして今、多くの政府がゼロエミッション車を求めている。地球温暖化防止パリ協定など、あらゆることがゼロエミッション車無しでは不可能な方向に向かっている。

もちろん時間はかかる。消費者はまだEVは値段が高いと思っているし、充電インフラも十分ではないと思っているからだ。しかし、インフラが整い、EVの航続距離が伸びて、値段が下がれば明らかな移行が始まるだろう。賭けてもいい。

簡単に移行が進むわけではないが、この流れを避ける方法は見当たらない。

 

(政府や規制当局が言う通りに物事が進むのか?)

テクノロジーはすべて準備できている。問題は、消費者がそれにいくら払えるかだ。それがいつも問題だ。ある日からEV以外売るなと言われれば我々にはEVが既にある。だが、消費者は買いたくないだろう。規制当局が欲しいものと消費者が欲しいもののバランスも必要になる。

テクノロジー側は、燃料電池車もEVもPHEVも既に出来ている。問題はテクノロジーではない。世界中を見渡しても売れる車はいつも保守的で消費者はとても慎重だ。車に掛かるトータルコストは消費者にとって大きな関心だからだ。

それが世界中の規制当局と話している内容だ。テクノロジーの問題ではない。マーケタビリティの問題だ。だからこそ我々は、2025年や2030年に何を達成しなければいけないかビジョンを示してくれと頼んでいる。いきなり出せと言われても、技術を量産化して手頃な値段で市場に出すには時間が必要だからだ。

 

(EVで既存の自動車メーカーは主導権を失うのではないか?)

電動化は、やりたいとかやりたくないという問題ではない。起こっていることだ。グローバリゼーションと一緒だ。やりたいとかやりたくないとか、リスクがあるとかないとか言っても、その流れの中でやるしかない。

本当のリスクは、トレンドを理解しないこと、参加しないことだろう。

コネクティビティや自動運転も一緒だ。例えば、アップルの自動車プロジェクトはリスクか?という質問をよく受けるが、考え方による。受身の姿勢で先頭集団から遅れていて、主導権を失うからこれは良くない事だなどと考えているならリスクだ。だが消費者が興味を持つようなものがあった時に、こちらも自分の考えるビジネスモデルを示せるならチャンスだ。

 

(他社のEVは走行可能距離を伸ばしているが?)

我々も新しい製品は出す。

ところで、バッテリーの性能が上がっても走行距離の不安は無くならないだろう。それがなくなるのは充電インフラが整って、それが目に見えた時だ。

私はこれまでたくさんの車を買ったが、どれくらいの距離を走行できるかなど気にしたことは一度もない。なぜなら、ガソリンスタンドはそこらじゅうにあるからだ。

走行可能距離が200kmでも300kmでも400kmでも関係ない。好きな時に止まって充電すればいいだけだ。現状のEVの問題は走行可能距離で劣ること。充電インフラが不十分だということ。走行可能距離を伸ばす必要がないと言っているわけではないが、とにかく充電インフラが目に見えて整うまで走行距離の不安が無くなるとは思わない。それと充電スピードだが、現在30分かかっているが将来的に10分以下は可能だろう。 

電気自動車

 

 

いかがでしたでしょうか。

一連の質疑応答で見えてくるゴーン氏の考えは、少し意外だと言っていいでしょう。

消費者が主体というよりも各国政府は環境保護の観点からEVを売りたいと考えており規制や減税などのインセンティブでそれは達成できるのだから、今後EVが売れるのは必然だということを言っています。実際フランス、イギリス、インド、中国などが相次いで内燃機関の販売禁止とEVの推進を打ち出していますから、ゴーン氏の考えが正しければこれらの国では将来のEVマーケットは約束されていると言っていいでしょう。欧州におけるディーゼルのシェアの例で彼が説明した通り、もともと消費者にはガソリンが好きとか電気が好きなんていう趣向はないのです。税制などを鑑みてお買い得な方を買うだけです。

また、巷ではよく指摘されているバッテリーや充電などEVの技術的課題とされる点も、車側の技術の問題ではなく基本的にはインフラ整備の問題として捉えている点も見逃せません。

  

日本政府が推進する燃料電池車の可能性などについても、ぜひゴーン氏の見解を聞いてみたいものです。

 

 

NASAの失敗作スペースシャトル

テスラのイーロン・マスクCEOが率いるもう一つの企業スペースXやアマゾン創業者ジェフ・ベゾス氏のブルーオリジンなど民間の宇宙開発が注目を集めるようになった昨今ですが、多くの年代の人にとって宇宙船と聞けば真っ先に思い浮かべるのがアメリカのスペースシャトルでしょう。

実際スペースシャトルは、人類の歴史に大きな成果をいくつも残しました。

ハッブル宇宙望遠鏡を完成させた5回に及ぶミッションやスペースラボと呼ばれる実験モジュールを搭載して宇宙空間で数々の実験も行いました、また、日本人を含む世界各国の学者や技術者を宇宙飛行士として宇宙に連れても行きました。

 

そんなスペースシャトルですが、135回目の打ち上げを完了して引退した現在の評価は真っ二つに割れています。

スペースシャトルは失敗だったのでしょうか。

 

 

アポロ計画後の宇宙開発

1969年に人類を月に送るという目標を達成したアポロ計画が終了したのち、高コストだったアポロ計画よりも低コストで人や物資を宇宙に送れる次世代宇宙船の開発はNASAの主要課題になりました。

そこでNASAが1969年に考案したコンセプトがSpace Transport System(STS)と呼ばれる再利用可能な宇宙船を使ったシステムでした。

STSは、地球や月の周回軌道上に宇宙ステーションを建設してその宇宙ステーション間を原子力宇宙船で行き来するというシステムで、スペースシャトルは地上から周回軌道上の宇宙ステーションへ行く低コストで再利用可能な宇宙船という位置付けでした。

原子力宇宙船

火星、月、地球を行き来する原子力宇宙船のコンセプト

 

スペースシャトルに求められた目標は2つで、アポロ計画で使われたサターンVロケットのように高コストな使い捨てのシステムではなく、宇宙船を再利用して低コスト化することと、地球や月、そして火星の周回軌道上に宇宙ステーションを建設するというNASAの目標を補助することでした。

当時、アポロ計画の功労者であるロケット科学者のヴェルナー・フォン・ブラウンが有人火星飛行を支持し、軍も再利用可能な宇宙船に興味を持っていました。しかし、人類を月に送るという宇宙開発競争に勝利したアメリカ政府にはもはや巨額の予算を計上する意志はなくSTSのコンセプトと有人火星飛行は却下され、スペースシャトルだけが開発許可されたのです。

スペースシャトルコンセプト

原子力宇宙船に貨物を渡すスペースシャトルのコンセプト

 

 

スペースシャトルの開発

こうして1972年にスペースシャトルの開発が始まりますが、軍やニクソン大統領の政治方針により、スペースシャトルは開発予算が削られる一方で当初のコンセプトからは大きく外れて複雑な設計になっていきます。

 

スペースシャトルは、Solid Rocket Booster(SRB)と呼ばれる2本の個体燃料補助ロケットとオレンジ色の外部燃料タンクから液体燃料を受け取り作動するスペースシャトル自体に取り付けられたメインエンジンで打ち上げられます。これは宇宙船の再利用と軍の求める積載量を満足するために必要な設計でした。

下段に液体燃料を搭載したエンジン部があり、上段に人や物資を載せる構造である従来のロケットとは大きく設計が異なるある意味実験的なコンセプトです。そして、この設計こそ安全性と信頼性を落とす結果になったと指摘する声が多いのです。

シャトル打ち上げ

スペースシャトル打ち上げの様子

 

 

スペースシャトルの安全性

スペースシャトルは、宇宙には行っていないテスト用の1号機エンタープライズ号のほかに、実用機のアトランティス号、チャレンジャー号、コロンビア号、ディスカバリー号、エンデバー号と名前の付けられた5機がありましたが、135回の打ち上げの中でこの5機のうち2機が事故を起こし14人の宇宙飛行士が亡くなっています。

これは、機体事故率40%、打ち上げ失敗率1.5%となり、歴史上最も危険な有人宇宙船となってしまいました。

NASAは当初、事故は打ち上げ10万回に1回の確率であると計算していましたが、スペースシャトルが引退した現在の最終的な結果は、当初の想定より1500倍も悪い68回に1回の確率となっています。

 

最初の事故は1986年、チャレンジャー号が打ち上げ直後に爆発するというものでした。その後の調査でSRBのシーリング異常が原因と判明しています。

次の事故は2003年、コロンビア号が宇宙から帰還する際に空中分解した事故です。原因は打ち上げ時に外部燃料タンクから剥がれ落ちた破片がスペースシャトル左翼の断熱タイルを破壊したため、大気圏再突入に耐えられなかったというものです。

チャレンジャー号の事故はSRBが、コロンビア号の事故は外部燃料タンクが原因で、このどちらの事故もスペースシャトル特有の設計に起因しており従来のロケットであれば起こらなかった可能性が高いのです。

 

スペースシャトルのコスト

また打ち上げコストを下げるために再利用可能なことが優先されたためスペースシャトルのエンジンは複雑でメンテナンス性が非常に悪い設計となりました。これが、アポロ計画で使われたサターンVロケットのエンジンを作るよりも高コストになってしまい、かえってスペースシャトルの打ち上げコストは上昇しました。使い捨てのロケットよりも高価な宇宙船になってしまったのです。

また当初は1機当たり年間50回の打ち上げが可能になることを想定していましたが、帰還したスペースシャトルのメンテナンスは複雑で数カ月の期間を要するため、NASAの全スペースシャトルを使っても年間4回しか打ち上げられませんでした。

費用は一回の打ち上げが10から15億ドルで、当初の計算より20倍も高い金額です。

それでも、スペースシャトルは国際宇宙ステーションの建設に不可欠だったため、NASAには打ち上げを継続する以外に選択肢はありませんでした。

 

さらにスペースシャトルの開発費用こそ50億ドルと予定通りに収まりましたが、スペースシャトル計画全体で使われた費用は2000億ドルにもなり、巨額の費用がNASAをスペースシャトル計画に縛り付けて間接的に他の計画を妨げる原因にもなってしまいました。

サターンVロケット

 アポロ計画で使われていたサターンVロケット

 

 

歴史に”もしも”はありませんが、2007年にはNASA長官のマイケル・D・グリフィンが、仮にスペースシャトルの開発をせずにアポロ計画からサターンロケットの改良が継続されていれば、同じ費用で年間6回の打ち上げが可能でそのうち2回は月にも行けただろうと言っています。つまり数十年間にわたって月での様々な実験や活動を行う機会を逃したというのです。そして、有人火星飛行も今日までに既に達成できていたはずだと付け加えています。

 

たしかに今になって歴史を振り返り総括をすれば、スペースシャトルは失敗作だったという見方もあるのかもしれません。しかし、これから始まる民間の宇宙開発時代に先立ってスペースシャトルは貴重な教訓をたくさん残しました。次はスペースシャトルを見て育った世代が、NASAのエンジニアが目指していたSTSのコンセプト実現に挑戦する番です。その時、人々は成功面も失敗面も含めてスペースシャトルが作った宇宙開発の土台にきっと感謝するのではないでしょうか。

 

 

 

 

Reference;

CuriousDroid:https://youtu.be/Ja4ZlswGvpE

MIT technology review:https://www.technologyreview.com/s/424586/was-the-space-shuttle-a-mistake/

 

電気自動車はCO2排出量削減に無意味か

地球温暖化対策として注目を集める電気自動車(EV)ですが、よくある批判としてEVを充電するための電気は発電所で石油を燃やして作られるのだから、CO2の削減にはならないというものです。

確かにEVは走っている時にはCO2を出していませんが、電気を作る際にCO2は出ているわけですから当然の批判です。特に日本は実質的に原発が使えない状況のためこの意見には説得力があります。

温室効果ガス

 

では実際のところはどうなのかベルギーに本部を置くNGOであるEuropean Federation for Transport and Environmentが、車のライフサイクル全体、つまり原材料の採掘から車を組み立てて実際に使用されてから廃車されるまで、のすべての要素を含めて環境への影響を検証した研究結果を発表しています。

 

EV対ガソリン車

まず、EVは発電所で代わりにCO2を出しているだけだという意見ですが、これは想定通りで当たっているようです。

石炭や石油で発電した電気を使ってEVを充電して走らせた場合とエンジンでガソリンを燃やして車を走らせた場合とでは、1km走行当たりに排出する二酸化炭素の量はほぼ変わらないとされています。

 

石炭発電でEVを充電 : 139 - 175 [g/km]

石油発電でEVを充電 : 114 - 143 [g/km]

ガソリン車 : 143 [g/km]

 

しかしこれをもってEVはCO2削減に対して無意味だと結論付けるのはまだ早いです。

 

 

車のライフサイクル

ライフサイクル全体という意味では、車を走らせる以外にも様々な場所でCO2は排出されています。中でもCO2排出が特に多いのが以下の4つのようです。

 

1)燃料のサプライチェーン

2)燃料をエネルギーに変換

3)車体の製造、メンテナンス、リサイクル

4)エンジン、モーター、バッテリーの製造

 

ではEVはいつCO2を発生させているのかというと主には3つだけの要素でほぼ全てを占めており、一番大きいのはやはり電気の発電時で約70%のCO2が発電で排出されます。残りは約15%が車体の製造とさらに15%がバッテリーの製造からのCO2排出です。

 

しかし、EVにおいて70%のCO2排出を占めている発電には、火力、水力、原子力、太陽光、風力などいくつもの方法があってそれぞれでCO2排出量は全く違います。先ほど石油を燃やしてEVを充電しても意味がないことは分かりましたが、現実世界のように火力発電以外の色々な発電方式が混ざって作られた電気でEVを充電するとどうなるのでしょうか。

 

これは国によってかなり異なります。

例えば、原発依存率の高いフランスでは電気を発電するのにCO2の排出量が40[g/kwh]ですが石炭発電の多いポーランドでは650[g/kwh]にもなっていて、同じ量の電気を作るのでもCO2排出量が16倍も違うことがわかります。

日本は、欧州でいうと原発を廃止しているドイツとほぼ同じ水準で約400[g/kwh]程度とされています。

 

EVのCO2削減量 

これらを踏まえて、ガソリン車よりもCO2排出が少ないとされるディーゼル車と比較してEVがライフサイクル全体で排出するCO2はどうなるかというと、原発が多いフランスでは80%ものCO2が削減できることになるそうです。

そしてドイツでもディーゼル車比45%のCO2削減。日本もこのレベルにあると思われます。さらになんとフランスの16倍もCO2を出して発電をしているポーランドですらEVはディーゼル車より25%もCO2排出量は少ないといいます。

ちなみに、以前当ブログでも紹介した99%水力発電のノルウェーは、フランスよりも少ないCO2排出量16[g/kwh]で発電しているそうなので、ノルウェーのEVはディーゼル車比90%近くはCO2削減に貢献していそうです。

 

 

ということで、原発が止まって火力発電所をかなり使用している日本でも、EVは二酸化炭素排出量削減に十分意味があるようです。

 

 

 

 

 

Reference;

Transport&Environment:https://www.transportenvironment.org/publications/electric-vehicle-life-cycle-analysis-and-raw-material-availability

GlobalNote:https://www.globalnote.jp/post-8101.html

 

消滅・減っていく苗字 日本人が全員佐藤になる日

夫婦で別々の姓を名乗れる夫婦別姓の是非が議論されている昨今ですが、反対に夫婦で同じ姓を名乗らなければいけない夫婦同姓で気になる点といえば結婚に際して片方の苗字がなくなるということでしょう。名前が途絶えるなんていう言われ方もします。

例えば、鈴木さんと高橋さんが結婚したとして、夫婦が鈴木を名乗ることにすれば高橋の名前は無くなります。もちろん、高橋さんには兄弟がいてそちらで高橋の名前が残るかもしれませんが、いずれにしても、結婚によって2つあった苗字が1つ消えるということが起こります。

そこで特に困るのは珍しい苗字の場合でしょう。鈴木なら自分の家系が途絶えても他にも鈴木さんがたくさんいるので鈴木の名前は残ります。しかし、珍しい苗字の場合は自分の家系が途絶えたら最後、その苗字自体が誰にも継承されず消えて無くなるということも考えられます。

実際イギリスでは、1901年以降現在までで既に20万もの苗字(ファミリーネーム)が誰にも継承されずに消えてしまったそうです。

 

ここで気になってくるのは、このまま苗字が消えていったら最後は一つだけを残して全員同じ苗字になってしまうのではないかという点です。日本人はいつか全員佐藤になるのでしょうか。

 

 

ガルトン=ワトソン過程

歴史上にも同じことを考えた人がいました。1874年、イギリスのフランシス・ガルトンとヘンリー・ワトソンは、貴族の名前が消滅する可能性についてガルトン=ワトソン過程という数学的モデルを提示しました。仮に、下の二つの条件のもとで苗字が消滅するかどうかを計算してみたのです。

 

1.男の側の苗字だけが継承されるとする

2.子供が男子か女子かはランダムに決まるとする

 

ガルトン=ワトソン過程

結果的には例えば人口が増えている場合、ここでは仮に毎年10%増えている(青色の線 λ=1.1)とすると80%の苗字は50世代以内に消滅することになります。また、人口が安定している(緑色の線 λ=1)場合では95%の苗字が50世代以内に消滅するというのです。

そして、人口が増えていない(緑と赤の線 λ<=1)場合には何れにしても最終的に苗字は1つになってしまうことが示されています。

 

 

 

実際に苗字は消滅している

ところで、苗字(ファミリーネーム)は18世紀までは世界で決して一般的ではなく、むしろ父称という父親の名前を継ぐ1世代前までしか遡れない名前の方が一般的でした。例えばジョンソンは、John sonつまりジョンの息子ですし、ビンラディンはラディンの息子です。中東にしろ東欧にしろxxxの息子という意味の名前が世界中にあるのはこうした背景があるのです。

一方で古くから苗字を使っていたのは中国です。

数千年の歴史を誇る中国では、既にガルトン=ワトソン過程で示されるような現象が起こっています。当初12万あったと言われる中国の苗字ですが、現在では約3千にまで減っているのです。そして中国人の4人に1人は、王さんか李さんか張さんです。この3つの苗字だけで実に3億人いると言われます。また上位200の苗字だけで人口の96%がカバーされています。

 

もっとすごいのはお隣のベトナムです。なんとベトナムで一番多いグエンさんが人口の40%にも達していて、上位3つの苗字で人口の60%を、15の苗字だけで人口の90%がカバーされます。そもそも、ベトナムには苗字が100ほどしか残っていません。

 

さて日本はというと、国の歴史は長いですが現代の苗字は明治時代に使われ始めたばかりなので数世代しか経っておらず、今でも10万以上の苗字があると言われています。

また海外では、19世紀のナポレオン戦争後に苗字を使い始めたオランダも6万8千以上と多くの苗字があります。

 

 

 

ということで、仮にガルトン=ワトソン過程に基づいて、50世代で苗字が1つに収束するとして、全員が30歳で子供を産み世代交代するならば1500年の歳月が必要です。つまり日本人全員の苗字が佐藤になるのは西暦3500年前後ということになります。

まだまだ当分先の話になりそうです。

 

 

 

 

Reference;

Quora:https://www.quora.com/Is-it-possible-for-a-last-name-to-go-extinct

AtlasObscura:http://www.atlasobscura.com/articles/nguyen-name-common-vietnam

RestofUs:https://youtu.be/5p-Jdjo7sSQ

 

昔の人は青が見えなかった

好きな色ランキング第1位の常連である「青」。ある調査によれば、世界中で青は2位以下を大きく引き離して好きな色の第1位なのだそうです。 

しかし驚くべきことに、長い歴史の中で人類が「青」の存在に気がついたのはかなり最近になってからだといいます。

 

青のない世界

1858年、のちにイリギスの首相を4期つとめるウィリアム・グラッドストンは、古代ギリシャの詩人ホメロスが書いた「オッデュッセイア」の中で、海が葡萄酒色と表現されていることに納得がいかなかったようです。しかも、ホメロスは牛も同じく葡萄酒色だと表現しているのです。

このことが気になったグラッドストンは、それぞれの色が何回出てくるか数えることにします。すると結果は黒が200回、白が100回、赤が15回、緑と黄が10回出てきたのに対して、青は0回でした。そして彼は、他の文献を含めても古代ギシリャの文章には青が出てこないことに気がつきます。

さらにグラッドストンはその他の文化圏の古い文献も同様に調査しましたが、アイスランドの神話にも中国の伝記にもヘブライ語の聖書にもヒンドゥーの教えにも、なんと青は出てこなかったのです。

 

なぜ青が出てこないのか不思議な気もしますが、古い文献に青が出てこないということに対しての答えは、1969年、カリフォルニア大学のブレント・バーリンとポール・ケイの二人が発表した有名な研究結果で説明ができます。

研究によれば言語の進化には人類共通のステップがあり、どの言語もまず第一に白と黒の表現から始まり、その次は必ず赤といった決まった順番で徐々に色が増えていき最終的にステージ7と呼ばれるステップに到達すると全ての基本になる11色の色彩を表現できるようになるというのです。

青はステージ5とされ、ここに到達していない言語では青を直接表現できないということになります。

ホメロスの時代の古代ギリシャ語は「青」を持っていなったのです。

 

ステージ1:白・黒(明るい・暗い)

ステージ2:赤

ステージ3:黄か緑

ステージ4:黄と緑両方

ステージ5:青

ステージ6:茶色

ステージ7:紫、ピンク、オレンジ、灰色

 

そもそも色とは

人間が目でとらえる色の違いとは、実際は光の波長の違いであって波長の長い赤から波長の短い紫まですべては連続しているのです。それぞれの色には明確な境目があるわけではありません。そのため連続する波長のどこを切り取って色の名前を付けるかには無数の可能性があります。

例えばロシア語には、他の言語と違い暗めの青と明るめの青にSiniyとGoluboyという全く別の単語が使われています。つまりロシア人にとってそれは明るめとか暗めとかではなく別の色なのです。

f:id:T_e_a:20171012220821p:plain

色のスペクトラム (By Meganbeckett27 (Own work) [CC BY-SA 3.0 (https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0)], via Wikimedia Commons)

 

しかし色に呼び名があるかどうかは、ただ色を細かく呼び分けられるということ以上の影響があることも分かってきています。

 

マサチューセッツ工科大学の研究では、SiniyとGoluboyという単語を母国語に持っているロシア人の方がアメリカ人よりも青の微妙な違いを認識するのが10%早いという結果が出ています。

もう一つの例は、青と緑の区別がない言語を使うナミビアのヒンバ族です。

研究者が画面上に緑の四角形11個と青の四角形1個を表示させても、彼らは青い四角形を見つけられないか気がつくのにとても時間がかかるという実験結果を得ています。一方でヒンバ族は緑を表現する単語を複数持っているために、緑色の微妙な違いを見分ける能力はとても高いのです。

ちなみにこれは異文化圏だけの話ではありません。例えば、ピンクは明るい赤ですが、別の呼び名がついているので別の色だとして認識している人が大半ではないでしょうか。

 

もちろん、ロシア人もアメリカ人もヒンバ族も目が光の波長を捉える能力は同じです。つまり、母国語に単語が有るか無いかで、物の見え方が変わるということなのです。

ものが見えるかどうかは視力など目の能力で直接決まるように考えがちです。しかし実際には、母国語で二つのものが別の単語で定義されていればそれはすぐに見分けられますし、一つの単語しかなければ両者に違いがあることが見えないのが人間なのです。

 

哲学者のルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインは、次のような言葉を残しています。

「私の言語の限界が私の世界の限界となる。」

 

近年、国際化の流れの中で英語教育の重要性が注目されていますが、日本語教育も決して疎かにしてはいけないでしょう。

多くの子供たちにとって、日本語の限界がその子にとっての世界の限界となるのです。 

 

 

 

Reference;

YouGov:https://today.yougov.com/news/2015/05/12/why-blue-worlds-favorite-color/

Business Insider:https://www.businessinsider.com.au/what-is-blue-and-how-do-we-see-color-2015-2

Eagereyes:https://eagereyes.org/blog/2011/you-only-see-colors-you-can-name

Vox:https://youtu.be/gMqZR3pqMjg

Vsource2:https://youtu.be/VIg5HkyauoY

コンピュータの進化と物理的限界

なぜ去年出たiPhoneより今年出るiPhoneの方が性能がいいのか。なぜ5年前のPCより今年出たPCは処理が早いのか。

これらは有名なムーアの法則というアメリカの半導体会社インテルの共同創業者ゴードン・ムーア氏が提唱したコンピュータの性能は18ヶ月毎に2倍になるという法則の通りに実際にコンピュータが進化していたからです。

ところが、近年はこれが限界に近づきつつあると言われています。

 

理由がVeritasiumで説明されていました。

youtu.be

 

コンピュータの原理

コンピュータは究極的には0と1ですべての情報を処理しているのはよく知られているところですが、どのように0と1を作っているのでしょうか。

分かりやすく言えばスイッチを使っているわけです。

スイッチをONすると電流が流れる、反対にスイッチをOFFすると電流が止まる、これによりコンピュータ上で0と1が表現できるのです。しかし、これは理科の実験で使われるような金属のレバーを使ってON OFFされるわけではなく、1948年に発明されたトランジスタという仕組みが使われています。

トランジスタは、半導体と呼ばれる電気を通す導体と電気を通さない絶縁体の中間的な特性の物質であり、機械的にスイッチを動かすことなく電流を流したり止めたりする事ができるのです。これには通常シリコンが使われます。

f:id:T_e_a:20171007075408p:plain

From Wikimedia Commons, the free media repository, Illustrator: Arne Nordmann (norro)

具体的には、上の図のように電子を注入したドレイン(Drain)とソース(Source)と呼ばれる部分がp型半導体と呼ばれる層で分離されており、そのままでは電流が流れないようにしてあります。そこにゲート(Gate)と呼ばれる端子を用意したらトランジスタの完成です。

ゲートに電圧をかけるとp型半導体のドレインとソース間に電子の通り道が出来て、電流が流れます。ゲートに電圧をかけるのをやめればまた電子の通り道はなくなって、電流が止まるというわけです。

こうして大量のトランジスタがON OFFを繰り返すことで、コンピュータは動いているのです。ちなみにインテルが1971年に発表したプロセッサでは、一つのチップの中にこうしたトランジスタが2300個入っていましたが、現在のチップでは10億個以上にもなっています。

 

物理的な限界

さて、コンピュータの性能が18ヶ月で2倍になるというムーアの法則は、別の言い方をすれば18ヶ月でチップに収まるトランジスタの数が2倍になるということです。つまり、トランジスタを18ヶ月で半分の大きさにしなければなりません。トランジスタの大きさは、先ほどのドレインとソースの距離で表現されるのが一般的で、両者の距離が40ナノメートルなら40nmプロセスの半導体などと呼ばれるのですが、これが年々小さくなっているわけです。

18ヶ月毎に半分ですから36ヶ月後には1/4になり、その後1/8、1/16、1/32と勢いは加速していきます。そして現在では、ドレインとソースの間の距離はシリコン原子50個ほどのサイズにまで到達しています。このレベルの小ささになってくると量子力学の世界に入り込み、たとえドレインとソースが繋がっていなくても電子は隙間を飛び越えて反対側に移動できてしまいますから、もはや電流のON OFFをコントロールすることはできなくなってしまいます。これがコンピュータの進化の物理的な限界です。

 

いつ物理的な限界に達するかは誰にもわかりません。しかし限界は7ナノメートル程度と言われている中、最新のチップはすでに14ナノメートルにまで到達しているのです。

あと数年で人類はコンピュータの物理的な限界に到達するかもしれません。