空飛ぶクルマに最も近づいた70年代ニューヨーク
SFの世界では当たり前の乗り物である空飛ぶクルマ。以前から人々は空飛ぶ車がいつか実現すると信じてきました。
そんな空飛ぶクルマに最も近づいたのはアメリカニューヨークにあったNew York Airwaysでしょう。
1953年にニューヨークにあるラガーディア空港とJFK空港の間をヘリコプターで移動できるシャトル便を開始したのが始まりです。料金は4ドル50セントでした。
ニューヨークエアウェイズのヘリコプター (Ken Fielding/http://www.flickr.com/photos/kenfielding)
1956年には、空港とマンハッタンにあるヘリポートを結ぶ便が開始され、朝の9時から夜19時半まで1日に33便が運行されていました。
そして、空飛ぶクルマに最も近づいたのが1965年開始、マンハッタンのアイコン的存在パンナムビル(現メットライフビル)の屋上にあるヘリポートとJFK空港を10分で結ぶ直航便です。1日に23便あり、乗客はJFK空港の出発40分前になるとパンナムビル側でフライトのチェックインが可能で、1977年にはJFK以外の空港行きの便も含めてパンナムビル発着便は1日48便もありました。年間の利用者は実に50万人にもなったといいます。
現在の日本でも街の中心と空港を結ぶシャトルバスは一般的ですが、1970年代のニューヨークでは、街のど真ん中にあるビルの屋上から空港まで直行できる空飛ぶ乗り物が手頃な値段で定期運行されていたというのですから驚きです。ニューヨークの空では空飛ぶエアポートシャトルバスが日常の光景だったわけです。
映画監督のリドリー・スコットも1982年公開のSF映画「ブレードランナー」のインスピレーションをここから得たと語っているほどです。
パンナムビルの屋上 (gordon.bevan@xtra.co.nz at https://flickr.com/photos/130275500@N02/29976991683)
ところが現在ニューヨークの空を飛ぶエアポートシャトルは見られません。
1977年5月16日。パンナムビルの屋上で機体が横転し、破損したブレードによって外で便を待っていた乗客4人が死亡。さらにビルから落下したブレードで下の歩道を歩いていた通行人1人も死亡するという大事故が発生してしまったため、パンナムビル屋上のヘリポートは閉鎖され空飛ぶバスは姿を消しました。
ついに空飛ぶクルマが実現する
ニューヨークエアウェイズが空飛ぶエアポートシャトルの運行を終了してから40年以上が経過した現在、ついに空飛ぶ車が現実のものになろうとしています。
それは、eVTOLと呼ばれる乗り物です。eVTOLは、Electric Vertical Take-Off and Landingの頭文字で電気を動力源として垂直に離着陸可能な人が乗れるドローンのような乗り物です。まさに、SFの世界に出てくる空飛ぶ車そのものです。
今世界ではeVTOLの商用化計画が複数進行しています。
Uber elevate
スマホ一つで目の前に車を手配できるライドシェアリングサービスで世界に衝撃を与えたUberは、2020年までにeVTOLのテスト飛行と2023年の商用サービス開始を計画しています。
現在世界の大都市では移動にかかる時間的コストが問題になっています。例えばサンフランシスコでは一人当たり年間230時間が通勤に費やされており、これはサンフランシスコ全体で毎日50万時間が浪費されていることを意味します。これを解決するのが狙いです。
eVTOLの機体は、ヘリコプターで有名なBell helicopter社、すでにアメリカ軍の研究プログラムでeVTOLを開発しているAurora Flight Sciences社、小型旅客機で有名なEmbraer社、ベンチャーのPipistrelとMooney社の計5社が契約しています。
今もっとも空飛ぶ車の実現に近い計画でしょう。
Lilium
ドイツのベンチャー企業Liliumも、Uber同様にスマホなどを使ってオンデマンドでeVTOLを呼び出して目的地まで短時間で移動できる空飛ぶ車の商用サービス化を目指しています。
Liliumによれば5人乗りで最高時速300km/hに達する機体で、例えば現在タクシーで55分かかっているマンハッタンからJFK国際空港までを5分で移動できるとしています。
すでに自主開発のフルサイズ試作機で無人飛行実験を成功させており、その空を飛ぶ動きから、開発はかなり進んでいることが伺えます。2019年に有人テスト飛行、2025年の商用サービス開始を予定しています。
エアバス
大型旅客機の世界でボーイングと2強を形成するエアバスもCity airbusというeVTOLのコンセプトを発表しています。
デロリアン
映画「バックトゥーザフューチャー」で空飛ぶタイムマシンに改造された車デロリアン。創業者ジョン・デロリアン氏の甥にあたるポール・デロリアン氏はデロリアン エアロスペース社を立ち上げてeVTOLのコンセプトを発表しています。
デロリアンが空飛ぶ車を開発するとは、なんとも象徴的な出来事です。
Cartivator
日本からはトヨタも出資しているeVTOLの開発グループが、SkyDriveという機体を開発しています。
UberやLiliumの計画が予定通り進めば、SFの中の乗り物だった空飛ぶ車はリニア中央新幹線の開業よりも先に実現するのです。
なんとも夢のある話です。
Reference;
Uber:https://www.uber.com/info/elevate/
Lilium:https://lilium.com