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サラリーマンがネットで見つけたネタに対する感想

かつて車の排気ガスは人を凶暴化していた

日本の殺人件数は戦後から下がり続けて、現在では人口当たりの殺人件数は世界でも最も低い水準になっています。

TVや新聞の報道などから殺人が増えていると思っている方も多いようですが、件数が減った分一つの事件が大きく取り上げられて、なんとなく凶悪犯罪が増えていると感じるのかもしれません。

下のグラフは殺人事件発生率の推移を示した国連のデータですが、日本では1955年から2011年の間に殺人件数は80%以上も減少しています。

殺人件数

国連 Global study on homicide:https://www.unodc.org/documents/data-and-analysis/statistics/GSH2013/2014_GLOBAL_HOMICIDE_BOOK_web.pdf

 

実は、時期は多少異なるものの世界各国である時期から殺人を含む凶悪犯罪が大幅に減少するという現象が起こっており、様々な分析がなされています。

有名な例は、90年代のアメリカ、ニューヨーク市でジュリアーニ市長が徹底的に軽犯罪を取り締まった根拠としている割れ窓理論(ブロークンウィンドウ理論)と呼ばれるもので、割れた窓が放置されているような小さな犯罪が放置されている場所では、少しずつ大きな犯罪が発生し始めて最後には凶悪犯罪が日常化してしまうため、落書きでもなんでも小さな犯罪を徹底的に取り締まることで治安を改善することができるとするものです。実際にジュリアーニ市長が就任してからニューヨークの犯罪は半減しており効果があったとする意見もありますが、90年代はアメリカの他の地域でも犯罪が激減しており要因は別にあるはずだという意見もあります。

 

 

鉛原因説とは

犯罪の減少を説明するもう一つの説として鉛(なまり)を原因とするものがあります。

鉛は幼少期に人間が摂取すると、中毒症状としてIQの低下やADHD(注意欠如多動性障害)、学習障害、異常行動などの有害な影響が見られることがわかっていますが、これが犯罪にも影響するのではないかという説です。

そもそも鉛と人間の接触は、古くはペンキに含まれていたり一部の水道管が鉛でできていたため水道水に鉛が溶け出したりといった経路がありましたが、最も大きな要因は自動車の排気ガスでした。ノッキングと呼ばれるエンジンの不完全燃焼を防ぐのに鉛が有用であることが発見されて一気に普及したのが有鉛ガソリンです。以前は、こうした有害な成分に対する法律による規制や車側の対策が十分ではなかったために有鉛ガソリンを使う車から排気ガスとして鉛が大気中に放出され、またそれが道路や周辺の地面などを汚染することで人体に鉛が取り込まれていたのです。今でもガソリンスタンドに行くと無鉛プレミアムガソリンという表記を見ますが、世界的に禁止されるまでは有鉛ガソリンというものもあったのです。

 排気ガス

 

 

 

さて元の仮説に戻ると主張は単純で、有鉛ガソリンの登場とともに凶悪犯罪は増加しており、有鉛ガソリンの禁止で凶悪犯罪は激減したというのです。

ただし、幼少期に有鉛ガソリンの影響を受けた子供が実際に犯罪を犯すのは大人になってからなので、両者には約20年の時間差があるというのがこの説の主張です。

次のグラフはNational centre for healthy housingという団体のコンサルタントRick Nevinという人がまとめたアメリカのデータです。

犯罪発生率アメリカ

Rick Nevin : https://www.ricknevin.com/home.html

 

子供の血中鉛濃度と凶悪犯罪の推移が23年のズレをもって一致しているのがわかります。

また同氏は、オーストラリア、カナダ、イギリス、フィンランド、フランス、イタリア、ニュージーランド、西ドイツで同じ傾向が確認できたとしています。

その後、別の大学の研究などでアメリカの各州の鉛濃度と犯罪の関係を調べると、鉛濃度が急激に増えれば犯罪も急激に増え、鉛がゆっくり減れば犯罪もゆっくり減るという関係性も確認されています。

 

意外な発見は、おそらく大都市で犯罪発生率が高かったのも鉛濃度が原因ではないかというものです。

大都市では、狭い面積にたくさんの車があるので大気中の鉛濃度も濃くなります。鉛が多いので犯罪率が高い。郊外は逆に鉛が少ないので犯罪率が低い。事実、有鉛ガソリンが廃止されて以降最近では大都市と郊外での犯罪発生率には大差がないということも、この考えを支持しています。

 

 

さて、国が違っても増減スピードが違っても犯罪発生率との関係性を維持する鉛。

もちろん、鉛がどういうメカニズムで人に犯罪を起こさせるのか示されていないという反論もあります。この説の真偽のほどは分かりませんが、当時の鉛は消えて無くなったわけではなく今でも幹線道路沿いや土壌に少量残っているのです。将来の凶悪犯罪の温床となるかもしれない環境破壊は、過去の話で済まされないかもしれません。

 

 

 

Reference;

BBC:http://www.bbc.com/news/magazine-27067615

Mother Jones:http://www.motherjones.com/environment/2016/02/lead-exposure-gasoline-crime-increase-children-health/