消滅・減っていく苗字 日本人が全員佐藤になる日
夫婦で別々の姓を名乗れる夫婦別姓の是非が議論されている昨今ですが、反対に夫婦で同じ姓を名乗らなければいけない夫婦同姓で気になる点といえば結婚に際して片方の苗字がなくなるということでしょう。名前が途絶えるなんていう言われ方もします。
例えば、鈴木さんと高橋さんが結婚したとして、夫婦が鈴木を名乗ることにすれば高橋の名前は無くなります。もちろん、高橋さんには兄弟がいてそちらで高橋の名前が残るかもしれませんが、いずれにしても、結婚によって2つあった苗字が1つ消えるということが起こります。
そこで特に困るのは珍しい苗字の場合でしょう。鈴木なら自分の家系が途絶えても他にも鈴木さんがたくさんいるので鈴木の名前は残ります。しかし、珍しい苗字の場合は自分の家系が途絶えたら最後、その苗字自体が誰にも継承されず消えて無くなるということも考えられます。
実際イギリスでは、1901年以降現在までで既に20万もの苗字(ファミリーネーム)が誰にも継承されずに消えてしまったそうです。
ここで気になってくるのは、このまま苗字が消えていったら最後は一つだけを残して全員同じ苗字になってしまうのではないかという点です。日本人はいつか全員佐藤になるのでしょうか。
ガルトン=ワトソン過程
歴史上にも同じことを考えた人がいました。1874年、イギリスのフランシス・ガルトンとヘンリー・ワトソンは、貴族の名前が消滅する可能性についてガルトン=ワトソン過程という数学的モデルを提示しました。仮に、下の二つの条件のもとで苗字が消滅するかどうかを計算してみたのです。
1.男の側の苗字だけが継承されるとする
2.子供が男子か女子かはランダムに決まるとする
結果的には例えば人口が増えている場合、ここでは仮に毎年10%増えている(青色の線 λ=1.1)とすると80%の苗字は50世代以内に消滅することになります。また、人口が安定している(緑色の線 λ=1)場合では95%の苗字が50世代以内に消滅するというのです。
そして、人口が増えていない(緑と赤の線 λ<=1)場合には何れにしても最終的に苗字は1つになってしまうことが示されています。
実際に苗字は消滅している
ところで、苗字(ファミリーネーム)は18世紀までは世界で決して一般的ではなく、むしろ父称という父親の名前を継ぐ1世代前までしか遡れない名前の方が一般的でした。例えばジョンソンは、John sonつまりジョンの息子ですし、ビンラディンはラディンの息子です。中東にしろ東欧にしろxxxの息子という意味の名前が世界中にあるのはこうした背景があるのです。
一方で古くから苗字を使っていたのは中国です。
数千年の歴史を誇る中国では、既にガルトン=ワトソン過程で示されるような現象が起こっています。当初12万あったと言われる中国の苗字ですが、現在では約3千にまで減っているのです。そして中国人の4人に1人は、王さんか李さんか張さんです。この3つの苗字だけで実に3億人いると言われます。また上位200の苗字だけで人口の96%がカバーされています。
もっとすごいのはお隣のベトナムです。なんとベトナムで一番多いグエンさんが人口の40%にも達していて、上位3つの苗字で人口の60%を、15の苗字だけで人口の90%がカバーされます。そもそも、ベトナムには苗字が100ほどしか残っていません。
さて日本はというと、国の歴史は長いですが現代の苗字は明治時代に使われ始めたばかりなので数世代しか経っておらず、今でも10万以上の苗字があると言われています。
また海外では、19世紀のナポレオン戦争後に苗字を使い始めたオランダも6万8千以上と多くの苗字があります。
ということで、仮にガルトン=ワトソン過程に基づいて、50世代で苗字が1つに収束するとして、全員が30歳で子供を産み世代交代するならば1500年の歳月が必要です。つまり日本人全員の苗字が佐藤になるのは西暦3500年前後ということになります。
まだまだ当分先の話になりそうです。
Reference;
Quora:https://www.quora.com/Is-it-possible-for-a-last-name-to-go-extinct
AtlasObscura:http://www.atlasobscura.com/articles/nguyen-name-common-vietnam
RestofUs:https://youtu.be/5p-Jdjo7sSQ