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サラリーマンがネットで見つけたネタに対する感想

NASAの失敗作スペースシャトル

テスラのイーロン・マスクCEOが率いるもう一つの企業スペースXやアマゾン創業者ジェフ・ベゾス氏のブルーオリジンなど民間の宇宙開発が注目を集めるようになった昨今ですが、多くの年代の人にとって宇宙船と聞けば真っ先に思い浮かべるのがアメリカのスペースシャトルでしょう。

実際スペースシャトルは、人類の歴史に大きな成果をいくつも残しました。

ハッブル宇宙望遠鏡を完成させた5回に及ぶミッションやスペースラボと呼ばれる実験モジュールを搭載して宇宙空間で数々の実験も行いました、また、日本人を含む世界各国の学者や技術者を宇宙飛行士として宇宙に連れても行きました。

 

そんなスペースシャトルですが、135回目の打ち上げを完了して引退した現在の評価は真っ二つに割れています。

スペースシャトルは失敗だったのでしょうか。

 

 

アポロ計画後の宇宙開発

1969年に人類を月に送るという目標を達成したアポロ計画が終了したのち、高コストだったアポロ計画よりも低コストで人や物資を宇宙に送れる次世代宇宙船の開発はNASAの主要課題になりました。

そこでNASAが1969年に考案したコンセプトがSpace Transport System(STS)と呼ばれる再利用可能な宇宙船を使ったシステムでした。

STSは、地球や月の周回軌道上に宇宙ステーションを建設してその宇宙ステーション間を原子力宇宙船で行き来するというシステムで、スペースシャトルは地上から周回軌道上の宇宙ステーションへ行く低コストで再利用可能な宇宙船という位置付けでした。

原子力宇宙船

火星、月、地球を行き来する原子力宇宙船のコンセプト

 

スペースシャトルに求められた目標は2つで、アポロ計画で使われたサターンVロケットのように高コストな使い捨てのシステムではなく、宇宙船を再利用して低コスト化することと、地球や月、そして火星の周回軌道上に宇宙ステーションを建設するというNASAの目標を補助することでした。

当時、アポロ計画の功労者であるロケット科学者のヴェルナー・フォン・ブラウンが有人火星飛行を支持し、軍も再利用可能な宇宙船に興味を持っていました。しかし、人類を月に送るという宇宙開発競争に勝利したアメリカ政府にはもはや巨額の予算を計上する意志はなくSTSのコンセプトと有人火星飛行は却下され、スペースシャトルだけが開発許可されたのです。

スペースシャトルコンセプト

原子力宇宙船に貨物を渡すスペースシャトルのコンセプト

 

 

スペースシャトルの開発

こうして1972年にスペースシャトルの開発が始まりますが、軍やニクソン大統領の政治方針により、スペースシャトルは開発予算が削られる一方で当初のコンセプトからは大きく外れて複雑な設計になっていきます。

 

スペースシャトルは、Solid Rocket Booster(SRB)と呼ばれる2本の個体燃料補助ロケットとオレンジ色の外部燃料タンクから液体燃料を受け取り作動するスペースシャトル自体に取り付けられたメインエンジンで打ち上げられます。これは宇宙船の再利用と軍の求める積載量を満足するために必要な設計でした。

下段に液体燃料を搭載したエンジン部があり、上段に人や物資を載せる構造である従来のロケットとは大きく設計が異なるある意味実験的なコンセプトです。そして、この設計こそ安全性と信頼性を落とす結果になったと指摘する声が多いのです。

シャトル打ち上げ

スペースシャトル打ち上げの様子

 

 

スペースシャトルの安全性

スペースシャトルは、宇宙には行っていないテスト用の1号機エンタープライズ号のほかに、実用機のアトランティス号、チャレンジャー号、コロンビア号、ディスカバリー号、エンデバー号と名前の付けられた5機がありましたが、135回の打ち上げの中でこの5機のうち2機が事故を起こし14人の宇宙飛行士が亡くなっています。

これは、機体事故率40%、打ち上げ失敗率1.5%となり、歴史上最も危険な有人宇宙船となってしまいました。

NASAは当初、事故は打ち上げ10万回に1回の確率であると計算していましたが、スペースシャトルが引退した現在の最終的な結果は、当初の想定より1500倍も悪い68回に1回の確率となっています。

 

最初の事故は1986年、チャレンジャー号が打ち上げ直後に爆発するというものでした。その後の調査でSRBのシーリング異常が原因と判明しています。

次の事故は2003年、コロンビア号が宇宙から帰還する際に空中分解した事故です。原因は打ち上げ時に外部燃料タンクから剥がれ落ちた破片がスペースシャトル左翼の断熱タイルを破壊したため、大気圏再突入に耐えられなかったというものです。

チャレンジャー号の事故はSRBが、コロンビア号の事故は外部燃料タンクが原因で、このどちらの事故もスペースシャトル特有の設計に起因しており従来のロケットであれば起こらなかった可能性が高いのです。

 

スペースシャトルのコスト

また打ち上げコストを下げるために再利用可能なことが優先されたためスペースシャトルのエンジンは複雑でメンテナンス性が非常に悪い設計となりました。これが、アポロ計画で使われたサターンVロケットのエンジンを作るよりも高コストになってしまい、かえってスペースシャトルの打ち上げコストは上昇しました。使い捨てのロケットよりも高価な宇宙船になってしまったのです。

また当初は1機当たり年間50回の打ち上げが可能になることを想定していましたが、帰還したスペースシャトルのメンテナンスは複雑で数カ月の期間を要するため、NASAの全スペースシャトルを使っても年間4回しか打ち上げられませんでした。

費用は一回の打ち上げが10から15億ドルで、当初の計算より20倍も高い金額です。

それでも、スペースシャトルは国際宇宙ステーションの建設に不可欠だったため、NASAには打ち上げを継続する以外に選択肢はありませんでした。

 

さらにスペースシャトルの開発費用こそ50億ドルと予定通りに収まりましたが、スペースシャトル計画全体で使われた費用は2000億ドルにもなり、巨額の費用がNASAをスペースシャトル計画に縛り付けて間接的に他の計画を妨げる原因にもなってしまいました。

サターンVロケット

 アポロ計画で使われていたサターンVロケット

 

 

歴史に”もしも”はありませんが、2007年にはNASA長官のマイケル・D・グリフィンが、仮にスペースシャトルの開発をせずにアポロ計画からサターンロケットの改良が継続されていれば、同じ費用で年間6回の打ち上げが可能でそのうち2回は月にも行けただろうと言っています。つまり数十年間にわたって月での様々な実験や活動を行う機会を逃したというのです。そして、有人火星飛行も今日までに既に達成できていたはずだと付け加えています。

 

たしかに今になって歴史を振り返り総括をすれば、スペースシャトルは失敗作だったという見方もあるのかもしれません。しかし、これから始まる民間の宇宙開発時代に先立ってスペースシャトルは貴重な教訓をたくさん残しました。次はスペースシャトルを見て育った世代が、NASAのエンジニアが目指していたSTSのコンセプト実現に挑戦する番です。その時、人々は成功面も失敗面も含めてスペースシャトルが作った宇宙開発の土台にきっと感謝するのではないでしょうか。

 

 

 

 

Reference;

CuriousDroid:https://youtu.be/Ja4ZlswGvpE

MIT technology review:https://www.technologyreview.com/s/424586/was-the-space-shuttle-a-mistake/