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サラリーマンがネットで見つけたネタに対する感想

日産のカルロス・ゴーン氏が考える電気自動車が売れる理由

日本の基幹産業である自動車業界に押し寄せている一つの大きな波といえば、ガソリンなどの化石燃料を使う内燃機関から電気自動車(EV)へと移行する電動化シフトでしょう。

なかでも、いち早くEV時代の到来に備えて製品を投入していたのが日産自動車でした。最初の本格的電気自動車リーフの登場は遡ること2010年の事です。これは、ルノー・日産アライアンスを率いているカルロス・ゴーン氏の先見性によるものでしょう。トヨタやホンダなど日本を代表する自動車会社が長らくEVから少し距離を置いていたのとは対照的です。ではなぜゴーン氏は、いち早く電気自動車の可能性に投資したのでしょうか。

少し古いですが2016年のデトロイトモーターショーで開かれたQAセッションから、ゴーン氏のEVに対する考え方が読み取れます。

 

youtu.be 

経済状況などを含めていろいろな質問が出ていますが、電気自動車に関連するゴーン氏の見解部分をまとめると以下のようになるでしょう。

 

 

(これからの展望は?)

今後毎年EVなどの排気ガスを出さないゼロエミッション車に多くの自動車メーカーが参入するだろう。消費者の需要はそれほど強いとは言えないが、環境規制をクリアするのに他の選択肢があるとは思えない。ゼロエミッション車かウルトラローエミッション車が必要になる。ウルトラローエミッション車とは、プラグインハイブリッド(PHEV)のことだが、PHEVもEVにエンジンが付いている車だ。ガソリン車にモーターが付いているということではない。

 

(消費者が強く求めていないのにどうやってEVを売るのか?)

確かに複雑な問題だが、消費者は規制当局の意向を気にしている。

例えば、欧州におけるディーゼル車の例は興味深い。ヨーロッパにおけるディーゼル車はマーケットシェアが50%以上もある。しかしこれは、50%の消費者がディーゼルを求めていたから起こったことではない。ヨーロッパの各国政府が行っている規制やインセンティブが、結果的に消費者をディーゼル車に向かわせただけだ。政府や規制当局が消費者に方向性を示すことでこうなったと言える。

実際アメリカ政府はそういった規制を行っていないので、アメリカでは誰もディーゼル車を買ってない。ヨーロッパ、日本、アメリカで自動車メーカーの顔ぶれはだいたい同じだがヨーロッパでは50%がディーゼル。日本とアメリカではほぼゼロ。消費者がこの流れを作ったとは思わない。各国の規制がこの状況を作った原因だ。

そして、ヨーロッパではディーゼルに対するバッシングが始まっている。消費者はディーゼル車を買うのを止め始めた。人々は規制当局の意向を気にしている。ヨーロッパの各国政府は、ディーゼル車を減らしたいと考え始めてインセンティブを減らしている。こうなると消費者はディーゼル車を買いたくなくなる。ディーゼル車のリセールバリュー(中古として手放す時の値段)が今後下がりそうだからだ。そしてディーゼルからの移行が始まるだろう。もちろん移行にはそれなりの時間がかかる。自動車メーカー側の製品供給力にも限界があるからだ。

自動車産業は、消費者の需要だけでは語れない産業だ。環境規制や政府が目指している方向性に強く影響される。そして今、多くの政府がゼロエミッション車を求めている。地球温暖化防止パリ協定など、あらゆることがゼロエミッション車無しでは不可能な方向に向かっている。

もちろん時間はかかる。消費者はまだEVは値段が高いと思っているし、充電インフラも十分ではないと思っているからだ。しかし、インフラが整い、EVの航続距離が伸びて、値段が下がれば明らかな移行が始まるだろう。賭けてもいい。

簡単に移行が進むわけではないが、この流れを避ける方法は見当たらない。

 

(政府や規制当局が言う通りに物事が進むのか?)

テクノロジーはすべて準備できている。問題は、消費者がそれにいくら払えるかだ。それがいつも問題だ。ある日からEV以外売るなと言われれば我々にはEVが既にある。だが、消費者は買いたくないだろう。規制当局が欲しいものと消費者が欲しいもののバランスも必要になる。

テクノロジー側は、燃料電池車もEVもPHEVも既に出来ている。問題はテクノロジーではない。世界中を見渡しても売れる車はいつも保守的で消費者はとても慎重だ。車に掛かるトータルコストは消費者にとって大きな関心だからだ。

それが世界中の規制当局と話している内容だ。テクノロジーの問題ではない。マーケタビリティの問題だ。だからこそ我々は、2025年や2030年に何を達成しなければいけないかビジョンを示してくれと頼んでいる。いきなり出せと言われても、技術を量産化して手頃な値段で市場に出すには時間が必要だからだ。

 

(EVで既存の自動車メーカーは主導権を失うのではないか?)

電動化は、やりたいとかやりたくないという問題ではない。起こっていることだ。グローバリゼーションと一緒だ。やりたいとかやりたくないとか、リスクがあるとかないとか言っても、その流れの中でやるしかない。

本当のリスクは、トレンドを理解しないこと、参加しないことだろう。

コネクティビティや自動運転も一緒だ。例えば、アップルの自動車プロジェクトはリスクか?という質問をよく受けるが、考え方による。受身の姿勢で先頭集団から遅れていて、主導権を失うからこれは良くない事だなどと考えているならリスクだ。だが消費者が興味を持つようなものがあった時に、こちらも自分の考えるビジネスモデルを示せるならチャンスだ。

 

(他社のEVは走行可能距離を伸ばしているが?)

我々も新しい製品は出す。

ところで、バッテリーの性能が上がっても走行距離の不安は無くならないだろう。それがなくなるのは充電インフラが整って、それが目に見えた時だ。

私はこれまでたくさんの車を買ったが、どれくらいの距離を走行できるかなど気にしたことは一度もない。なぜなら、ガソリンスタンドはそこらじゅうにあるからだ。

走行可能距離が200kmでも300kmでも400kmでも関係ない。好きな時に止まって充電すればいいだけだ。現状のEVの問題は走行可能距離で劣ること。充電インフラが不十分だということ。走行可能距離を伸ばす必要がないと言っているわけではないが、とにかく充電インフラが目に見えて整うまで走行距離の不安が無くなるとは思わない。それと充電スピードだが、現在30分かかっているが将来的に10分以下は可能だろう。 

電気自動車

 

 

いかがでしたでしょうか。

一連の質疑応答で見えてくるゴーン氏の考えは、少し意外だと言っていいでしょう。

消費者が主体というよりも各国政府は環境保護の観点からEVを売りたいと考えており規制や減税などのインセンティブでそれは達成できるのだから、今後EVが売れるのは必然だということを言っています。実際フランス、イギリス、インド、中国などが相次いで内燃機関の販売禁止とEVの推進を打ち出していますから、ゴーン氏の考えが正しければこれらの国では将来のEVマーケットは約束されていると言っていいでしょう。欧州におけるディーゼルのシェアの例で彼が説明した通り、もともと消費者にはガソリンが好きとか電気が好きなんていう趣向はないのです。税制などを鑑みてお買い得な方を買うだけです。

また、巷ではよく指摘されているバッテリーや充電などEVの技術的課題とされる点も、車側の技術の問題ではなく基本的にはインフラ整備の問題として捉えている点も見逃せません。

  

日本政府が推進する燃料電池車の可能性などについても、ぜひゴーン氏の見解を聞いてみたいものです。