打ちやすいからではない キーボードの配列がQWERTYになった理由
みなさんが使っているパソコンのキーボードは、特殊な例を除けば左上から順にQWERTYの並びになっていると思います。現在事実上の標準キーボードになっているこのタイプは、QWERTYの並びをそのまま読んで通称クワーティキーボードです。
キーボードがなぜこの並びなのか、一番有名な説はタイプライター時代にはキーを一つずつしか押せなかったために、連続して打つ可能性のあるアルファベットは離して配置したというものです。しかし、英語のアルファベットをキーが引っかからないように並べるやり方は無数に考えられ、QWERTYの配列になった理由を完全に説明しているとは言い難いです。
また、ある説では一番上の行だけでタイプライター(Typewriter)と打てるようにしたなどとも言われますが、残りの配列をどうやって決めたのか、なぜ一番上の一行でタイプライターと打つ必要があるのか全く意味不明です。
QWERTYの誕生
実は、タイプライター創世記の1840年から1890年頃までには、いろいろなタイプのキーボードが混在していたのです。そして現在世界中で使われているQWERTY配列は標準化団体などで仕様が策定されたわけではなく、1870年代にたった一人の人物によって考案されました。
例えば最初期の1840年代にHughes printing telegraphという電信機では、ピアノ型のキーボードにアルファベットが並べられていました。
また1865年のHansen writing ballというタイプライターでは、半球状にボタンが並べられており、それを押す仕組みが採用されていました。
1873年、ここでクリストファー・レイサム・ショールズ(Christopher Latham Sholes)という人物が、QWERTYに近いキー配列を考え出します。ピリオドとR、AとZが逆に配置されており、Mは一段上のLの右にありましたが、それ以外は現在のQWERTYと同じ配列です。そして、銃やミシンを作っていたレミントン(Remington)社がこのデザインを購入してタイプライター事業に参入するのです。
その後もショールズは1878年にさらにキー配置を少し変えて特許を取得しますが、CとXが逆で引き続きMはLの右にありました。
この直後に、ショールズからキー配列のデザインを購入してタイプライター事業に参入していたレミントン社がついに我々の知っているQWERTY配列を使ったタイプライターの販売を開始したのです。
クリストファー・レイサム・ショールズ
こうしてQWERTYキーボードは誕生しますが、この時点ではまだ沢山あるキー配列の中の一つでしかありませんでした。実際1889年には、左上からXPMCHRの配列になっているタイプライターが登場します。発案者はなんとクリストファー・レイサム・ショールズ。QWERTYの発案者ですら、のちに違うキー配列を提案しているのです。
では、発案者ですら改良を続けていたQWERTYはどうやって標準キー配列になったのでしょうか。
タイプライターを作る側
アメリカに独占禁止法ができる以前の1890年代、石油会社や鉄道会社などあらゆる業界で多くの会社がトラストを形成し、市場は大企業に独占され価格などは企業側が完全にコントロールする時代でした。もちろんタイプライター業界も例外ではなく、大手のタイプライター会社は手を組んで1893年にユニオンタイプライター社としてトラストを形成します。彼らの関心ごとはコストダウンで、ユニオンタイプライター社が採用したのが最大手だったレミントン社のQWERTY配列でした。
これによりQWERTYの市場シェアは圧倒的になります。
タイプライターを使う側
もう一つの理由は、キーボードの使用者です。
当時のタイプライターは、現在のパソコンとは全く違い訓練を受けた人しか使えませんでした。全員タイプライター学校に通ってタイピングを習得するのです。となるとタイプライター学校は、一番広く使われているタイプライターで生徒を訓練することになります。もちろんそれはQWERTYキーボードです。
当時多くの人がQWERTYよりも早く打てるキー配列があると考えていましたが、結局QWERTYキーで訓練を受けた人はそう簡単に別の方式のタイプライターには乗り換えられませんでした。
さて、キーボードというとパソコンのイメージからデジタル時代の産物の様な印象がありますが、実際にはエジソンが白熱電球の特許を出すよりも前に現在と同じQWERTY配列が完成していたのですから意外です。
そしてこうしている間にも新たに人々がQWERTYキーボードでタイピングの練習を始めているのですから、QWERTYが何か別のキー配列に取って代わられるというのもしばらくは起こりそうにありません。
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