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サラリーマンがネットで見つけたネタに対する感想

日産のカルロス・ゴーン氏が考える電気自動車が売れる理由

日本の基幹産業である自動車業界に押し寄せている一つの大きな波といえば、ガソリンなどの化石燃料を使う内燃機関から電気自動車(EV)へと移行する電動化シフトでしょう。

なかでも、いち早くEV時代の到来に備えて製品を投入していたのが日産自動車でした。最初の本格的電気自動車リーフの登場は遡ること2010年の事です。これは、ルノー・日産アライアンスを率いているカルロス・ゴーン氏の先見性によるものでしょう。トヨタやホンダなど日本を代表する自動車会社が長らくEVから少し距離を置いていたのとは対照的です。ではなぜゴーン氏は、いち早く電気自動車の可能性に投資したのでしょうか。

少し古いですが2016年のデトロイトモーターショーで開かれたQAセッションから、ゴーン氏のEVに対する考え方が読み取れます。

 

youtu.be 

経済状況などを含めていろいろな質問が出ていますが、電気自動車に関連するゴーン氏の見解部分をまとめると以下のようになるでしょう。

 

 

(これからの展望は?)

今後毎年EVなどの排気ガスを出さないゼロエミッション車に多くの自動車メーカーが参入するだろう。消費者の需要はそれほど強いとは言えないが、環境規制をクリアするのに他の選択肢があるとは思えない。ゼロエミッション車かウルトラローエミッション車が必要になる。ウルトラローエミッション車とは、プラグインハイブリッド(PHEV)のことだが、PHEVもEVにエンジンが付いている車だ。ガソリン車にモーターが付いているということではない。

 

(消費者が強く求めていないのにどうやってEVを売るのか?)

確かに複雑な問題だが、消費者は規制当局の意向を気にしている。

例えば、欧州におけるディーゼル車の例は興味深い。ヨーロッパにおけるディーゼル車はマーケットシェアが50%以上もある。しかしこれは、50%の消費者がディーゼルを求めていたから起こったことではない。ヨーロッパの各国政府が行っている規制やインセンティブが、結果的に消費者をディーゼル車に向かわせただけだ。政府や規制当局が消費者に方向性を示すことでこうなったと言える。

実際アメリカ政府はそういった規制を行っていないので、アメリカでは誰もディーゼル車を買ってない。ヨーロッパ、日本、アメリカで自動車メーカーの顔ぶれはだいたい同じだがヨーロッパでは50%がディーゼル。日本とアメリカではほぼゼロ。消費者がこの流れを作ったとは思わない。各国の規制がこの状況を作った原因だ。

そして、ヨーロッパではディーゼルに対するバッシングが始まっている。消費者はディーゼル車を買うのを止め始めた。人々は規制当局の意向を気にしている。ヨーロッパの各国政府は、ディーゼル車を減らしたいと考え始めてインセンティブを減らしている。こうなると消費者はディーゼル車を買いたくなくなる。ディーゼル車のリセールバリュー(中古として手放す時の値段)が今後下がりそうだからだ。そしてディーゼルからの移行が始まるだろう。もちろん移行にはそれなりの時間がかかる。自動車メーカー側の製品供給力にも限界があるからだ。

自動車産業は、消費者の需要だけでは語れない産業だ。環境規制や政府が目指している方向性に強く影響される。そして今、多くの政府がゼロエミッション車を求めている。地球温暖化防止パリ協定など、あらゆることがゼロエミッション車無しでは不可能な方向に向かっている。

もちろん時間はかかる。消費者はまだEVは値段が高いと思っているし、充電インフラも十分ではないと思っているからだ。しかし、インフラが整い、EVの航続距離が伸びて、値段が下がれば明らかな移行が始まるだろう。賭けてもいい。

簡単に移行が進むわけではないが、この流れを避ける方法は見当たらない。

 

(政府や規制当局が言う通りに物事が進むのか?)

テクノロジーはすべて準備できている。問題は、消費者がそれにいくら払えるかだ。それがいつも問題だ。ある日からEV以外売るなと言われれば我々にはEVが既にある。だが、消費者は買いたくないだろう。規制当局が欲しいものと消費者が欲しいもののバランスも必要になる。

テクノロジー側は、燃料電池車もEVもPHEVも既に出来ている。問題はテクノロジーではない。世界中を見渡しても売れる車はいつも保守的で消費者はとても慎重だ。車に掛かるトータルコストは消費者にとって大きな関心だからだ。

それが世界中の規制当局と話している内容だ。テクノロジーの問題ではない。マーケタビリティの問題だ。だからこそ我々は、2025年や2030年に何を達成しなければいけないかビジョンを示してくれと頼んでいる。いきなり出せと言われても、技術を量産化して手頃な値段で市場に出すには時間が必要だからだ。

 

(EVで既存の自動車メーカーは主導権を失うのではないか?)

電動化は、やりたいとかやりたくないという問題ではない。起こっていることだ。グローバリゼーションと一緒だ。やりたいとかやりたくないとか、リスクがあるとかないとか言っても、その流れの中でやるしかない。

本当のリスクは、トレンドを理解しないこと、参加しないことだろう。

コネクティビティや自動運転も一緒だ。例えば、アップルの自動車プロジェクトはリスクか?という質問をよく受けるが、考え方による。受身の姿勢で先頭集団から遅れていて、主導権を失うからこれは良くない事だなどと考えているならリスクだ。だが消費者が興味を持つようなものがあった時に、こちらも自分の考えるビジネスモデルを示せるならチャンスだ。

 

(他社のEVは走行可能距離を伸ばしているが?)

我々も新しい製品は出す。

ところで、バッテリーの性能が上がっても走行距離の不安は無くならないだろう。それがなくなるのは充電インフラが整って、それが目に見えた時だ。

私はこれまでたくさんの車を買ったが、どれくらいの距離を走行できるかなど気にしたことは一度もない。なぜなら、ガソリンスタンドはそこらじゅうにあるからだ。

走行可能距離が200kmでも300kmでも400kmでも関係ない。好きな時に止まって充電すればいいだけだ。現状のEVの問題は走行可能距離で劣ること。充電インフラが不十分だということ。走行可能距離を伸ばす必要がないと言っているわけではないが、とにかく充電インフラが目に見えて整うまで走行距離の不安が無くなるとは思わない。それと充電スピードだが、現在30分かかっているが将来的に10分以下は可能だろう。 

電気自動車

 

 

いかがでしたでしょうか。

一連の質疑応答で見えてくるゴーン氏の考えは、少し意外だと言っていいでしょう。

消費者が主体というよりも各国政府は環境保護の観点からEVを売りたいと考えており規制や減税などのインセンティブでそれは達成できるのだから、今後EVが売れるのは必然だということを言っています。実際フランス、イギリス、インド、中国などが相次いで内燃機関の販売禁止とEVの推進を打ち出していますから、ゴーン氏の考えが正しければこれらの国では将来のEVマーケットは約束されていると言っていいでしょう。欧州におけるディーゼルのシェアの例で彼が説明した通り、もともと消費者にはガソリンが好きとか電気が好きなんていう趣向はないのです。税制などを鑑みてお買い得な方を買うだけです。

また、巷ではよく指摘されているバッテリーや充電などEVの技術的課題とされる点も、車側の技術の問題ではなく基本的にはインフラ整備の問題として捉えている点も見逃せません。

  

日本政府が推進する燃料電池車の可能性などについても、ぜひゴーン氏の見解を聞いてみたいものです。

 

 

NASAの失敗作スペースシャトル

テスラのイーロン・マスクCEOが率いるもう一つの企業スペースXやアマゾン創業者ジェフ・ベゾス氏のブルーオリジンなど民間の宇宙開発が注目を集めるようになった昨今ですが、多くの年代の人にとって宇宙船と聞けば真っ先に思い浮かべるのがアメリカのスペースシャトルでしょう。

実際スペースシャトルは、人類の歴史に大きな成果をいくつも残しました。

ハッブル宇宙望遠鏡を完成させた5回に及ぶミッションやスペースラボと呼ばれる実験モジュールを搭載して宇宙空間で数々の実験も行いました、また、日本人を含む世界各国の学者や技術者を宇宙飛行士として宇宙に連れても行きました。

 

そんなスペースシャトルですが、135回目の打ち上げを完了して引退した現在の評価は真っ二つに割れています。

スペースシャトルは失敗だったのでしょうか。

 

 

アポロ計画後の宇宙開発

1969年に人類を月に送るという目標を達成したアポロ計画が終了したのち、高コストだったアポロ計画よりも低コストで人や物資を宇宙に送れる次世代宇宙船の開発はNASAの主要課題になりました。

そこでNASAが1969年に考案したコンセプトがSpace Transport System(STS)と呼ばれる再利用可能な宇宙船を使ったシステムでした。

STSは、地球や月の周回軌道上に宇宙ステーションを建設してその宇宙ステーション間を原子力宇宙船で行き来するというシステムで、スペースシャトルは地上から周回軌道上の宇宙ステーションへ行く低コストで再利用可能な宇宙船という位置付けでした。

原子力宇宙船

火星、月、地球を行き来する原子力宇宙船のコンセプト

 

スペースシャトルに求められた目標は2つで、アポロ計画で使われたサターンVロケットのように高コストな使い捨てのシステムではなく、宇宙船を再利用して低コスト化することと、地球や月、そして火星の周回軌道上に宇宙ステーションを建設するというNASAの目標を補助することでした。

当時、アポロ計画の功労者であるロケット科学者のヴェルナー・フォン・ブラウンが有人火星飛行を支持し、軍も再利用可能な宇宙船に興味を持っていました。しかし、人類を月に送るという宇宙開発競争に勝利したアメリカ政府にはもはや巨額の予算を計上する意志はなくSTSのコンセプトと有人火星飛行は却下され、スペースシャトルだけが開発許可されたのです。

スペースシャトルコンセプト

原子力宇宙船に貨物を渡すスペースシャトルのコンセプト

 

 

スペースシャトルの開発

こうして1972年にスペースシャトルの開発が始まりますが、軍やニクソン大統領の政治方針により、スペースシャトルは開発予算が削られる一方で当初のコンセプトからは大きく外れて複雑な設計になっていきます。

 

スペースシャトルは、Solid Rocket Booster(SRB)と呼ばれる2本の個体燃料補助ロケットとオレンジ色の外部燃料タンクから液体燃料を受け取り作動するスペースシャトル自体に取り付けられたメインエンジンで打ち上げられます。これは宇宙船の再利用と軍の求める積載量を満足するために必要な設計でした。

下段に液体燃料を搭載したエンジン部があり、上段に人や物資を載せる構造である従来のロケットとは大きく設計が異なるある意味実験的なコンセプトです。そして、この設計こそ安全性と信頼性を落とす結果になったと指摘する声が多いのです。

シャトル打ち上げ

スペースシャトル打ち上げの様子

 

 

スペースシャトルの安全性

スペースシャトルは、宇宙には行っていないテスト用の1号機エンタープライズ号のほかに、実用機のアトランティス号、チャレンジャー号、コロンビア号、ディスカバリー号、エンデバー号と名前の付けられた5機がありましたが、135回の打ち上げの中でこの5機のうち2機が事故を起こし14人の宇宙飛行士が亡くなっています。

これは、機体事故率40%、打ち上げ失敗率1.5%となり、歴史上最も危険な有人宇宙船となってしまいました。

NASAは当初、事故は打ち上げ10万回に1回の確率であると計算していましたが、スペースシャトルが引退した現在の最終的な結果は、当初の想定より1500倍も悪い68回に1回の確率となっています。

 

最初の事故は1986年、チャレンジャー号が打ち上げ直後に爆発するというものでした。その後の調査でSRBのシーリング異常が原因と判明しています。

次の事故は2003年、コロンビア号が宇宙から帰還する際に空中分解した事故です。原因は打ち上げ時に外部燃料タンクから剥がれ落ちた破片がスペースシャトル左翼の断熱タイルを破壊したため、大気圏再突入に耐えられなかったというものです。

チャレンジャー号の事故はSRBが、コロンビア号の事故は外部燃料タンクが原因で、このどちらの事故もスペースシャトル特有の設計に起因しており従来のロケットであれば起こらなかった可能性が高いのです。

 

スペースシャトルのコスト

また打ち上げコストを下げるために再利用可能なことが優先されたためスペースシャトルのエンジンは複雑でメンテナンス性が非常に悪い設計となりました。これが、アポロ計画で使われたサターンVロケットのエンジンを作るよりも高コストになってしまい、かえってスペースシャトルの打ち上げコストは上昇しました。使い捨てのロケットよりも高価な宇宙船になってしまったのです。

また当初は1機当たり年間50回の打ち上げが可能になることを想定していましたが、帰還したスペースシャトルのメンテナンスは複雑で数カ月の期間を要するため、NASAの全スペースシャトルを使っても年間4回しか打ち上げられませんでした。

費用は一回の打ち上げが10から15億ドルで、当初の計算より20倍も高い金額です。

それでも、スペースシャトルは国際宇宙ステーションの建設に不可欠だったため、NASAには打ち上げを継続する以外に選択肢はありませんでした。

 

さらにスペースシャトルの開発費用こそ50億ドルと予定通りに収まりましたが、スペースシャトル計画全体で使われた費用は2000億ドルにもなり、巨額の費用がNASAをスペースシャトル計画に縛り付けて間接的に他の計画を妨げる原因にもなってしまいました。

サターンVロケット

 アポロ計画で使われていたサターンVロケット

 

 

歴史に”もしも”はありませんが、2007年にはNASA長官のマイケル・D・グリフィンが、仮にスペースシャトルの開発をせずにアポロ計画からサターンロケットの改良が継続されていれば、同じ費用で年間6回の打ち上げが可能でそのうち2回は月にも行けただろうと言っています。つまり数十年間にわたって月での様々な実験や活動を行う機会を逃したというのです。そして、有人火星飛行も今日までに既に達成できていたはずだと付け加えています。

 

たしかに今になって歴史を振り返り総括をすれば、スペースシャトルは失敗作だったという見方もあるのかもしれません。しかし、これから始まる民間の宇宙開発時代に先立ってスペースシャトルは貴重な教訓をたくさん残しました。次はスペースシャトルを見て育った世代が、NASAのエンジニアが目指していたSTSのコンセプト実現に挑戦する番です。その時、人々は成功面も失敗面も含めてスペースシャトルが作った宇宙開発の土台にきっと感謝するのではないでしょうか。

 

 

 

 

Reference;

CuriousDroid:https://youtu.be/Ja4ZlswGvpE

MIT technology review:https://www.technologyreview.com/s/424586/was-the-space-shuttle-a-mistake/

 

電気自動車はCO2排出量削減に無意味か

地球温暖化対策として注目を集める電気自動車(EV)ですが、よくある批判としてEVを充電するための電気は発電所で石油を燃やして作られるのだから、CO2の削減にはならないというものです。

確かにEVは走っている時にはCO2を出していませんが、電気を作る際にCO2は出ているわけですから当然の批判です。特に日本は実質的に原発が使えない状況のためこの意見には説得力があります。

温室効果ガス

 

では実際のところはどうなのかベルギーに本部を置くNGOであるEuropean Federation for Transport and Environmentが、車のライフサイクル全体、つまり原材料の採掘から車を組み立てて実際に使用されてから廃車されるまで、のすべての要素を含めて環境への影響を検証した研究結果を発表しています。

 

EV対ガソリン車

まず、EVは発電所で代わりにCO2を出しているだけだという意見ですが、これは想定通りで当たっているようです。

石炭や石油で発電した電気を使ってEVを充電して走らせた場合とエンジンでガソリンを燃やして車を走らせた場合とでは、1km走行当たりに排出する二酸化炭素の量はほぼ変わらないとされています。

 

石炭発電でEVを充電 : 139 - 175 [g/km]

石油発電でEVを充電 : 114 - 143 [g/km]

ガソリン車 : 143 [g/km]

 

しかしこれをもってEVはCO2削減に対して無意味だと結論付けるのはまだ早いです。

 

 

車のライフサイクル

ライフサイクル全体という意味では、車を走らせる以外にも様々な場所でCO2は排出されています。中でもCO2排出が特に多いのが以下の4つのようです。

 

1)燃料のサプライチェーン

2)燃料をエネルギーに変換

3)車体の製造、メンテナンス、リサイクル

4)エンジン、モーター、バッテリーの製造

 

ではEVはいつCO2を発生させているのかというと主には3つだけの要素でほぼ全てを占めており、一番大きいのはやはり電気の発電時で約70%のCO2が発電で排出されます。残りは約15%が車体の製造とさらに15%がバッテリーの製造からのCO2排出です。

 

しかし、EVにおいて70%のCO2排出を占めている発電には、火力、水力、原子力、太陽光、風力などいくつもの方法があってそれぞれでCO2排出量は全く違います。先ほど石油を燃やしてEVを充電しても意味がないことは分かりましたが、現実世界のように火力発電以外の色々な発電方式が混ざって作られた電気でEVを充電するとどうなるのでしょうか。

 

これは国によってかなり異なります。

例えば、原発依存率の高いフランスでは電気を発電するのにCO2の排出量が40[g/kwh]ですが石炭発電の多いポーランドでは650[g/kwh]にもなっていて、同じ量の電気を作るのでもCO2排出量が16倍も違うことがわかります。

日本は、欧州でいうと原発を廃止しているドイツとほぼ同じ水準で約400[g/kwh]程度とされています。

 

EVのCO2削減量 

これらを踏まえて、ガソリン車よりもCO2排出が少ないとされるディーゼル車と比較してEVがライフサイクル全体で排出するCO2はどうなるかというと、原発が多いフランスでは80%ものCO2が削減できることになるそうです。

そしてドイツでもディーゼル車比45%のCO2削減。日本もこのレベルにあると思われます。さらになんとフランスの16倍もCO2を出して発電をしているポーランドですらEVはディーゼル車より25%もCO2排出量は少ないといいます。

ちなみに、以前当ブログでも紹介した99%水力発電のノルウェーは、フランスよりも少ないCO2排出量16[g/kwh]で発電しているそうなので、ノルウェーのEVはディーゼル車比90%近くはCO2削減に貢献していそうです。

 

 

ということで、原発が止まって火力発電所をかなり使用している日本でも、EVは二酸化炭素排出量削減に十分意味があるようです。

 

 

 

 

 

Reference;

Transport&Environment:https://www.transportenvironment.org/publications/electric-vehicle-life-cycle-analysis-and-raw-material-availability

GlobalNote:https://www.globalnote.jp/post-8101.html

 

消滅・減っていく苗字 日本人が全員佐藤になる日

夫婦で別々の姓を名乗れる夫婦別姓の是非が議論されている昨今ですが、反対に夫婦で同じ姓を名乗らなければいけない夫婦同姓で気になる点といえば結婚に際して片方の苗字がなくなるということでしょう。名前が途絶えるなんていう言われ方もします。

例えば、鈴木さんと高橋さんが結婚したとして、夫婦が鈴木を名乗ることにすれば高橋の名前は無くなります。もちろん、高橋さんには兄弟がいてそちらで高橋の名前が残るかもしれませんが、いずれにしても、結婚によって2つあった苗字が1つ消えるということが起こります。

そこで特に困るのは珍しい苗字の場合でしょう。鈴木なら自分の家系が途絶えても他にも鈴木さんがたくさんいるので鈴木の名前は残ります。しかし、珍しい苗字の場合は自分の家系が途絶えたら最後、その苗字自体が誰にも継承されず消えて無くなるということも考えられます。

実際イギリスでは、1901年以降現在までで既に20万もの苗字(ファミリーネーム)が誰にも継承されずに消えてしまったそうです。

 

ここで気になってくるのは、このまま苗字が消えていったら最後は一つだけを残して全員同じ苗字になってしまうのではないかという点です。日本人はいつか全員佐藤になるのでしょうか。

 

 

ガルトン=ワトソン過程

歴史上にも同じことを考えた人がいました。1874年、イギリスのフランシス・ガルトンとヘンリー・ワトソンは、貴族の名前が消滅する可能性についてガルトン=ワトソン過程という数学的モデルを提示しました。仮に、下の二つの条件のもとで苗字が消滅するかどうかを計算してみたのです。

 

1.男の側の苗字だけが継承されるとする

2.子供が男子か女子かはランダムに決まるとする

 

ガルトン=ワトソン過程

結果的には例えば人口が増えている場合、ここでは仮に毎年10%増えている(青色の線 λ=1.1)とすると80%の苗字は50世代以内に消滅することになります。また、人口が安定している(緑色の線 λ=1)場合では95%の苗字が50世代以内に消滅するというのです。

そして、人口が増えていない(緑と赤の線 λ<=1)場合には何れにしても最終的に苗字は1つになってしまうことが示されています。

 

 

 

実際に苗字は消滅している

ところで、苗字(ファミリーネーム)は18世紀までは世界で決して一般的ではなく、むしろ父称という父親の名前を継ぐ1世代前までしか遡れない名前の方が一般的でした。例えばジョンソンは、John sonつまりジョンの息子ですし、ビンラディンはラディンの息子です。中東にしろ東欧にしろxxxの息子という意味の名前が世界中にあるのはこうした背景があるのです。

一方で古くから苗字を使っていたのは中国です。

数千年の歴史を誇る中国では、既にガルトン=ワトソン過程で示されるような現象が起こっています。当初12万あったと言われる中国の苗字ですが、現在では約3千にまで減っているのです。そして中国人の4人に1人は、王さんか李さんか張さんです。この3つの苗字だけで実に3億人いると言われます。また上位200の苗字だけで人口の96%がカバーされています。

 

もっとすごいのはお隣のベトナムです。なんとベトナムで一番多いグエンさんが人口の40%にも達していて、上位3つの苗字で人口の60%を、15の苗字だけで人口の90%がカバーされます。そもそも、ベトナムには苗字が100ほどしか残っていません。

 

さて日本はというと、国の歴史は長いですが現代の苗字は明治時代に使われ始めたばかりなので数世代しか経っておらず、今でも10万以上の苗字があると言われています。

また海外では、19世紀のナポレオン戦争後に苗字を使い始めたオランダも6万8千以上と多くの苗字があります。

 

 

 

ということで、仮にガルトン=ワトソン過程に基づいて、50世代で苗字が1つに収束するとして、全員が30歳で子供を産み世代交代するならば1500年の歳月が必要です。つまり日本人全員の苗字が佐藤になるのは西暦3500年前後ということになります。

まだまだ当分先の話になりそうです。

 

 

 

 

Reference;

Quora:https://www.quora.com/Is-it-possible-for-a-last-name-to-go-extinct

AtlasObscura:http://www.atlasobscura.com/articles/nguyen-name-common-vietnam

RestofUs:https://youtu.be/5p-Jdjo7sSQ

 

昔の人は青が見えなかった

好きな色ランキング第1位の常連である「青」。ある調査によれば、世界中で青は2位以下を大きく引き離して好きな色の第1位なのだそうです。 

しかし驚くべきことに、長い歴史の中で人類が「青」の存在に気がついたのはかなり最近になってからだといいます。

 

青のない世界

1858年、のちにイリギスの首相を4期つとめるウィリアム・グラッドストンは、古代ギリシャの詩人ホメロスが書いた「オッデュッセイア」の中で、海が葡萄酒色と表現されていることに納得がいかなかったようです。しかも、ホメロスは牛も同じく葡萄酒色だと表現しているのです。

このことが気になったグラッドストンは、それぞれの色が何回出てくるか数えることにします。すると結果は黒が200回、白が100回、赤が15回、緑と黄が10回出てきたのに対して、青は0回でした。そして彼は、他の文献を含めても古代ギシリャの文章には青が出てこないことに気がつきます。

さらにグラッドストンはその他の文化圏の古い文献も同様に調査しましたが、アイスランドの神話にも中国の伝記にもヘブライ語の聖書にもヒンドゥーの教えにも、なんと青は出てこなかったのです。

 

なぜ青が出てこないのか不思議な気もしますが、古い文献に青が出てこないということに対しての答えは、1969年、カリフォルニア大学のブレント・バーリンとポール・ケイの二人が発表した有名な研究結果で説明ができます。

研究によれば言語の進化には人類共通のステップがあり、どの言語もまず第一に白と黒の表現から始まり、その次は必ず赤といった決まった順番で徐々に色が増えていき最終的にステージ7と呼ばれるステップに到達すると全ての基本になる11色の色彩を表現できるようになるというのです。

青はステージ5とされ、ここに到達していない言語では青を直接表現できないということになります。

ホメロスの時代の古代ギリシャ語は「青」を持っていなったのです。

 

ステージ1:白・黒(明るい・暗い)

ステージ2:赤

ステージ3:黄か緑

ステージ4:黄と緑両方

ステージ5:青

ステージ6:茶色

ステージ7:紫、ピンク、オレンジ、灰色

 

そもそも色とは

人間が目でとらえる色の違いとは、実際は光の波長の違いであって波長の長い赤から波長の短い紫まですべては連続しているのです。それぞれの色には明確な境目があるわけではありません。そのため連続する波長のどこを切り取って色の名前を付けるかには無数の可能性があります。

例えばロシア語には、他の言語と違い暗めの青と明るめの青にSiniyとGoluboyという全く別の単語が使われています。つまりロシア人にとってそれは明るめとか暗めとかではなく別の色なのです。

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色のスペクトラム (By Meganbeckett27 (Own work) [CC BY-SA 3.0 (https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0)], via Wikimedia Commons)

 

しかし色に呼び名があるかどうかは、ただ色を細かく呼び分けられるということ以上の影響があることも分かってきています。

 

マサチューセッツ工科大学の研究では、SiniyとGoluboyという単語を母国語に持っているロシア人の方がアメリカ人よりも青の微妙な違いを認識するのが10%早いという結果が出ています。

もう一つの例は、青と緑の区別がない言語を使うナミビアのヒンバ族です。

研究者が画面上に緑の四角形11個と青の四角形1個を表示させても、彼らは青い四角形を見つけられないか気がつくのにとても時間がかかるという実験結果を得ています。一方でヒンバ族は緑を表現する単語を複数持っているために、緑色の微妙な違いを見分ける能力はとても高いのです。

ちなみにこれは異文化圏だけの話ではありません。例えば、ピンクは明るい赤ですが、別の呼び名がついているので別の色だとして認識している人が大半ではないでしょうか。

 

もちろん、ロシア人もアメリカ人もヒンバ族も目が光の波長を捉える能力は同じです。つまり、母国語に単語が有るか無いかで、物の見え方が変わるということなのです。

ものが見えるかどうかは視力など目の能力で直接決まるように考えがちです。しかし実際には、母国語で二つのものが別の単語で定義されていればそれはすぐに見分けられますし、一つの単語しかなければ両者に違いがあることが見えないのが人間なのです。

 

哲学者のルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインは、次のような言葉を残しています。

「私の言語の限界が私の世界の限界となる。」

 

近年、国際化の流れの中で英語教育の重要性が注目されていますが、日本語教育も決して疎かにしてはいけないでしょう。

多くの子供たちにとって、日本語の限界がその子にとっての世界の限界となるのです。 

 

 

 

Reference;

YouGov:https://today.yougov.com/news/2015/05/12/why-blue-worlds-favorite-color/

Business Insider:https://www.businessinsider.com.au/what-is-blue-and-how-do-we-see-color-2015-2

Eagereyes:https://eagereyes.org/blog/2011/you-only-see-colors-you-can-name

Vox:https://youtu.be/gMqZR3pqMjg

Vsource2:https://youtu.be/VIg5HkyauoY

コンピュータの進化と物理的限界

なぜ去年出たiPhoneより今年出るiPhoneの方が性能がいいのか。なぜ5年前のPCより今年出たPCは処理が早いのか。

これらは有名なムーアの法則というアメリカの半導体会社インテルの共同創業者ゴードン・ムーア氏が提唱したコンピュータの性能は18ヶ月毎に2倍になるという法則の通りに実際にコンピュータが進化していたからです。

ところが、近年はこれが限界に近づきつつあると言われています。

 

理由がVeritasiumで説明されていました。

youtu.be

 

コンピュータの原理

コンピュータは究極的には0と1ですべての情報を処理しているのはよく知られているところですが、どのように0と1を作っているのでしょうか。

分かりやすく言えばスイッチを使っているわけです。

スイッチをONすると電流が流れる、反対にスイッチをOFFすると電流が止まる、これによりコンピュータ上で0と1が表現できるのです。しかし、これは理科の実験で使われるような金属のレバーを使ってON OFFされるわけではなく、1948年に発明されたトランジスタという仕組みが使われています。

トランジスタは、半導体と呼ばれる電気を通す導体と電気を通さない絶縁体の中間的な特性の物質であり、機械的にスイッチを動かすことなく電流を流したり止めたりする事ができるのです。これには通常シリコンが使われます。

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From Wikimedia Commons, the free media repository, Illustrator: Arne Nordmann (norro)

具体的には、上の図のように電子を注入したドレイン(Drain)とソース(Source)と呼ばれる部分がp型半導体と呼ばれる層で分離されており、そのままでは電流が流れないようにしてあります。そこにゲート(Gate)と呼ばれる端子を用意したらトランジスタの完成です。

ゲートに電圧をかけるとp型半導体のドレインとソース間に電子の通り道が出来て、電流が流れます。ゲートに電圧をかけるのをやめればまた電子の通り道はなくなって、電流が止まるというわけです。

こうして大量のトランジスタがON OFFを繰り返すことで、コンピュータは動いているのです。ちなみにインテルが1971年に発表したプロセッサでは、一つのチップの中にこうしたトランジスタが2300個入っていましたが、現在のチップでは10億個以上にもなっています。

 

物理的な限界

さて、コンピュータの性能が18ヶ月で2倍になるというムーアの法則は、別の言い方をすれば18ヶ月でチップに収まるトランジスタの数が2倍になるということです。つまり、トランジスタを18ヶ月で半分の大きさにしなければなりません。トランジスタの大きさは、先ほどのドレインとソースの距離で表現されるのが一般的で、両者の距離が40ナノメートルなら40nmプロセスの半導体などと呼ばれるのですが、これが年々小さくなっているわけです。

18ヶ月毎に半分ですから36ヶ月後には1/4になり、その後1/8、1/16、1/32と勢いは加速していきます。そして現在では、ドレインとソースの間の距離はシリコン原子50個ほどのサイズにまで到達しています。このレベルの小ささになってくると量子力学の世界に入り込み、たとえドレインとソースが繋がっていなくても電子は隙間を飛び越えて反対側に移動できてしまいますから、もはや電流のON OFFをコントロールすることはできなくなってしまいます。これがコンピュータの進化の物理的な限界です。

 

いつ物理的な限界に達するかは誰にもわかりません。しかし限界は7ナノメートル程度と言われている中、最新のチップはすでに14ナノメートルにまで到達しているのです。

あと数年で人類はコンピュータの物理的な限界に到達するかもしれません。

 

 

 

 

かつて車の排気ガスは人を凶暴化していた

日本の殺人件数は戦後から下がり続けて、現在では人口当たりの殺人件数は世界でも最も低い水準になっています。

TVや新聞の報道などから殺人が増えていると思っている方も多いようですが、件数が減った分一つの事件が大きく取り上げられて、なんとなく凶悪犯罪が増えていると感じるのかもしれません。

下のグラフは殺人事件発生率の推移を示した国連のデータですが、日本では1955年から2011年の間に殺人件数は80%以上も減少しています。

殺人件数

国連 Global study on homicide:https://www.unodc.org/documents/data-and-analysis/statistics/GSH2013/2014_GLOBAL_HOMICIDE_BOOK_web.pdf

 

実は、時期は多少異なるものの世界各国である時期から殺人を含む凶悪犯罪が大幅に減少するという現象が起こっており、様々な分析がなされています。

有名な例は、90年代のアメリカ、ニューヨーク市でジュリアーニ市長が徹底的に軽犯罪を取り締まった根拠としている割れ窓理論(ブロークンウィンドウ理論)と呼ばれるもので、割れた窓が放置されているような小さな犯罪が放置されている場所では、少しずつ大きな犯罪が発生し始めて最後には凶悪犯罪が日常化してしまうため、落書きでもなんでも小さな犯罪を徹底的に取り締まることで治安を改善することができるとするものです。実際にジュリアーニ市長が就任してからニューヨークの犯罪は半減しており効果があったとする意見もありますが、90年代はアメリカの他の地域でも犯罪が激減しており要因は別にあるはずだという意見もあります。

 

 

鉛原因説とは

犯罪の減少を説明するもう一つの説として鉛(なまり)を原因とするものがあります。

鉛は幼少期に人間が摂取すると、中毒症状としてIQの低下やADHD(注意欠如多動性障害)、学習障害、異常行動などの有害な影響が見られることがわかっていますが、これが犯罪にも影響するのではないかという説です。

そもそも鉛と人間の接触は、古くはペンキに含まれていたり一部の水道管が鉛でできていたため水道水に鉛が溶け出したりといった経路がありましたが、最も大きな要因は自動車の排気ガスでした。ノッキングと呼ばれるエンジンの不完全燃焼を防ぐのに鉛が有用であることが発見されて一気に普及したのが有鉛ガソリンです。以前は、こうした有害な成分に対する法律による規制や車側の対策が十分ではなかったために有鉛ガソリンを使う車から排気ガスとして鉛が大気中に放出され、またそれが道路や周辺の地面などを汚染することで人体に鉛が取り込まれていたのです。今でもガソリンスタンドに行くと無鉛プレミアムガソリンという表記を見ますが、世界的に禁止されるまでは有鉛ガソリンというものもあったのです。

 排気ガス

 

 

 

さて元の仮説に戻ると主張は単純で、有鉛ガソリンの登場とともに凶悪犯罪は増加しており、有鉛ガソリンの禁止で凶悪犯罪は激減したというのです。

ただし、幼少期に有鉛ガソリンの影響を受けた子供が実際に犯罪を犯すのは大人になってからなので、両者には約20年の時間差があるというのがこの説の主張です。

次のグラフはNational centre for healthy housingという団体のコンサルタントRick Nevinという人がまとめたアメリカのデータです。

犯罪発生率アメリカ

Rick Nevin : https://www.ricknevin.com/home.html

 

子供の血中鉛濃度と凶悪犯罪の推移が23年のズレをもって一致しているのがわかります。

また同氏は、オーストラリア、カナダ、イギリス、フィンランド、フランス、イタリア、ニュージーランド、西ドイツで同じ傾向が確認できたとしています。

その後、別の大学の研究などでアメリカの各州の鉛濃度と犯罪の関係を調べると、鉛濃度が急激に増えれば犯罪も急激に増え、鉛がゆっくり減れば犯罪もゆっくり減るという関係性も確認されています。

 

意外な発見は、おそらく大都市で犯罪発生率が高かったのも鉛濃度が原因ではないかというものです。

大都市では、狭い面積にたくさんの車があるので大気中の鉛濃度も濃くなります。鉛が多いので犯罪率が高い。郊外は逆に鉛が少ないので犯罪率が低い。事実、有鉛ガソリンが廃止されて以降最近では大都市と郊外での犯罪発生率には大差がないということも、この考えを支持しています。

 

 

さて、国が違っても増減スピードが違っても犯罪発生率との関係性を維持する鉛。

もちろん、鉛がどういうメカニズムで人に犯罪を起こさせるのか示されていないという反論もあります。この説の真偽のほどは分かりませんが、当時の鉛は消えて無くなったわけではなく今でも幹線道路沿いや土壌に少量残っているのです。将来の凶悪犯罪の温床となるかもしれない環境破壊は、過去の話で済まされないかもしれません。

 

 

 

Reference;

BBC:http://www.bbc.com/news/magazine-27067615

Mother Jones:http://www.motherjones.com/environment/2016/02/lead-exposure-gasoline-crime-increase-children-health/

空飛ぶクルマに最も近づいた70年代ニューヨーク

SFの世界では当たり前の乗り物である空飛ぶクルマ。以前から人々は空飛ぶ車がいつか実現すると信じてきました。

そんな空飛ぶクルマに最も近づいたのはアメリカニューヨークにあったNew York Airwaysでしょう。

1953年にニューヨークにあるラガーディア空港とJFK空港の間をヘリコプターで移動できるシャトル便を開始したのが始まりです。料金は4ドル50セントでした。

ニューヨークエアウェイズ

ニューヨークエアウェイズのヘリコプター (Ken Fielding/http://www.flickr.com/photos/kenfielding)

 

1956年には、空港とマンハッタンにあるヘリポートを結ぶ便が開始され、朝の9時から夜19時半まで1日に33便が運行されていました。

そして、空飛ぶクルマに最も近づいたのが1965年開始、マンハッタンのアイコン的存在パンナムビル(現メットライフビル)の屋上にあるヘリポートとJFK空港を10分で結ぶ直航便です。1日に23便あり、乗客はJFK空港の出発40分前になるとパンナムビル側でフライトのチェックインが可能で、1977年にはJFK以外の空港行きの便も含めてパンナムビル発着便は1日48便もありました。年間の利用者は実に50万人にもなったといいます。

現在の日本でも街の中心と空港を結ぶシャトルバスは一般的ですが、1970年代のニューヨークでは、街のど真ん中にあるビルの屋上から空港まで直行できる空飛ぶ乗り物が手頃な値段で定期運行されていたというのですから驚きです。ニューヨークの空では空飛ぶエアポートシャトルバスが日常の光景だったわけです。

映画監督のリドリー・スコットも1982年公開のSF映画「ブレードランナー」のインスピレーションをここから得たと語っているほどです。

パンナムビル

パンナムビルの屋上 (gordon.bevan@xtra.co.nz at https://flickr.com/photos/130275500@N02/29976991683)

 

ところが現在ニューヨークの空を飛ぶエアポートシャトルは見られません。

1977年5月16日。パンナムビルの屋上で機体が横転し、破損したブレードによって外で便を待っていた乗客4人が死亡。さらにビルから落下したブレードで下の歩道を歩いていた通行人1人も死亡するという大事故が発生してしまったため、パンナムビル屋上のヘリポートは閉鎖され空飛ぶバスは姿を消しました。

 

 

 

ついに空飛ぶクルマが実現する

ニューヨークエアウェイズが空飛ぶエアポートシャトルの運行を終了してから40年以上が経過した現在、ついに空飛ぶ車が現実のものになろうとしています。

それは、eVTOLと呼ばれる乗り物です。eVTOLは、Electric Vertical Take-Off and Landingの頭文字で電気を動力源として垂直に離着陸可能な人が乗れるドローンのような乗り物です。まさに、SFの世界に出てくる空飛ぶ車そのものです。

今世界ではeVTOLの商用化計画が複数進行しています。

 

 

Uber elevate

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スマホ一つで目の前に車を手配できるライドシェアリングサービスで世界に衝撃を与えたUberは、2020年までにeVTOLのテスト飛行と2023年の商用サービス開始を計画しています。

現在世界の大都市では移動にかかる時間的コストが問題になっています。例えばサンフランシスコでは一人当たり年間230時間が通勤に費やされており、これはサンフランシスコ全体で毎日50万時間が浪費されていることを意味します。これを解決するのが狙いです。

eVTOLの機体は、ヘリコプターで有名なBell helicopter社、すでにアメリカ軍の研究プログラムでeVTOLを開発しているAurora Flight Sciences社、小型旅客機で有名なEmbraer社、ベンチャーのPipistrelとMooney社の計5社が契約しています。

今もっとも空飛ぶ車の実現に近い計画でしょう。

 

 

Lilium

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ドイツのベンチャー企業Liliumも、Uber同様にスマホなどを使ってオンデマンドでeVTOLを呼び出して目的地まで短時間で移動できる空飛ぶ車の商用サービス化を目指しています。

Liliumによれば5人乗りで最高時速300km/hに達する機体で、例えば現在タクシーで55分かかっているマンハッタンからJFK国際空港までを5分で移動できるとしています。

すでに自主開発のフルサイズ試作機で無人飛行実験を成功させており、その空を飛ぶ動きから、開発はかなり進んでいることが伺えます。2019年に有人テスト飛行、2025年の商用サービス開始を予定しています。

 

 

エアバス

大型旅客機の世界でボーイングと2強を形成するエアバスもCity airbusというeVTOLのコンセプトを発表しています。

 

デロリアン

映画「バックトゥーザフューチャー」で空飛ぶタイムマシンに改造された車デロリアン。創業者ジョン・デロリアン氏の甥にあたるポール・デロリアン氏はデロリアン エアロスペース社を立ち上げてeVTOLのコンセプトを発表しています。

デロリアンが空飛ぶ車を開発するとは、なんとも象徴的な出来事です。

 

Cartivator

日本からはトヨタも出資しているeVTOLの開発グループが、SkyDriveという機体を開発しています。

 

 

 

UberやLiliumの計画が予定通り進めば、SFの中の乗り物だった空飛ぶ車はリニア中央新幹線の開業よりも先に実現するのです。

なんとも夢のある話です。

 

 

Reference;

Bloomberg:https://www.bloomberg.com/news/articles/2017-08-10/the-return-of-rooftop-helicopter-commuting-in-new-york-city

Uber:https://www.uber.com/info/elevate/

Lilium:https://lilium.com

 

 

なぜ中国とインドは人口が多いのか

人口が多い国といえば誰もが思い浮かべるのが中国とインドでしょう。事実この両国を合わせると人口は27億人にもなります。

他国と比べると、次に人口が多い20ヶ国をすべて合わせても26億人しかいませんし、残りの170ヶ国には20億人しかいません。圧倒的な人口の多さです。

ではなぜ中国とインドはそんなに人口が多いのでしょうか。理由が、「MinuteEarth」で分かりやすく説明されています。

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当初から人が多い

過去300年の人口の推移を見ると、中国は13億人、インドは12億人も人口が増えています。この人口の急増によって両国とその他の国々の人口には圧倒的な差が生まれていることが分かります。

しかし、実は人口の増加率という点でいうと中国やインドとその他の国にはそれほど大きな差は見られません。中国やインドには、数百年前の時点でその他の国々よりも少し多くの人々が住んでいました。同じ人口増加率でも数百年の時が経過することで、当初の差が21世紀の現在では圧倒的な差となってみえるのです。 

銀行の利子が同じでも、たくさんお金を預ければその分たくさん利息が返ってくるのと同じです。

 

多くの人が住んでいた理由

ではなぜインドと中国は人口爆発が起こる前からすでに人口が多かったのでしょうか。

これには諸説ありますが、最も大きな理由は二つあり食料と土地です。 

単純に畑を作れる土地が多くて水へのアクセスも良ければ、たくさんの食料を生産できますので、たくさんの人が住めます。今日でも、人口1位の中国は農地の面積が第4位、人口2位のインドが農地面積第2位、人口3位のアメリカが農地面積3位なのです。

有史以前からこの条件で最も恵まれていたのがアジアということになります。中国やインドは農耕に適した面積が多く水も豊富です。また、気候の面でも栽培できる食物が多様です。実際、現在世界の人々の主要な食料となっている、麦や米。動物では牛、豚、鶏などはすべてアジア発祥です。そもそも食用にできるものが身の回りにたくさんあった恵まれた土地だと言えます。食料が豊富だからたくさんの人が暮らせるというわけです。

ではアジアの中でなぜインドと中国かといえば面積です。隣国のパキスタンやバングラデシュも人口密度は高いですが、国の面積が小さいのでその分総人口も少なくなってしまいます。

 

ということで、どうしても中国とインドという国単位で、なぜあの国は人口が多いのかと考えてしまいますが、地球には単純に人口が多く住める場所とそうでない場所があり、たまたま多く住める場所の大部分の面積に中国とインドという国があるのです。

 

 

さて中国やインドの人口だけではなく、現在の世界はどうして今のような形になったのか、興味のある方にはカリフォルニア大学のジャレド・ダイアモンド教授による著書「銃・病原菌・鉄」をお勧めします。

ピュリッツァー賞受賞の本書が、なぜ人類はアフリカから世界に広がったのにも関わらず、ヨーロッパ人がアフリカを植民地にしたのか、なぜアフリカ人がヨーロッパを支配することにならなかったのか。といった疑問に科学的な説明を試みています。

 

 

 

 

 

テスラのバッテリー交換式EVはなぜ失敗したか

電気自動車の問題点としてしばしば指摘されるのが充電時間です。

例えば2017年にフルモデルチェンジした日産の電気自動車リーフの場合急速充電器を使って0から80%までの充電が40分となっています。

現実的に0%から充電を始めることはないと思いますが、多少充電が残っている状態から始めても2,30分はかかるでしょう。

ここで誰もが思いつくのが、バッテリーをその場で充電するのではなくて交換すればいいではないかというアイデア。交換なら充電よりも早そうですし、ひょっとしたらガソリンを入れるよりも早いかもしれません。

 

実はこのアイデアは、すでに数年前にテスラによって実証実験されています。

発表会では、テスラモデルSと同サイズの大型セダンであるアウディA8の二者で、バッテリー交換とガソリン給油のどちらが早いか実演してみせています。CEOのイーロン・マスク氏も得意げですが、結果はアウディが3分で給油をする間にテスラは2台バッテリー交換を済ませました。

電気自動車の充電時間問題、解決です。

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しかし、問題がありました。

誰も使わなかったのです。

実証実験が始まって最初に招待された200人の中でバッテリー交換を試したのはたったの4,5人だったとテスラの株主に報告されています。しかも全員1回のみ。誰も二度と使わなかったそうです。実際アンケートでも54%の人はバッテリー交換に「興味なし」と回答しています。

ここで忘れてはならないのは、当時招待された人は2013年の時点でテスラの電気自動車を所有していた人たちですから、マーケティングでいうアーリーアダプター、つまり新しいものは何でも試したい人たちです。その人たちが使わないのですから普及は絶望的でしょう。

 

この結果に対するマスク氏の分析は、80%まで40分で充電できるテスラの充電システム「スーパーチャージャー」はすでに十分早いので、ユーザーは困っていないというものです。

例えばサンフランシスコからロサンゼルスに朝の9時に出発したとして昼頃には休憩をしたいはずだし昼食も取るだろう。休憩の間に次の数百キロを走る分の充電が終わるからバッテリー交換をする理由はあまり見当たらない。と話しています。

スーパーチャージャー

 

 

この理屈は日本にも当てはまるでしょう。

東京と名古屋が道なりに走って350km。大阪と広島が330km。仙台と青森が360km。

フル充電で400km走れる電気自動車ならこの距離を直行することも可能ですが、どのルートも途中で休憩を入れるのが普通でしょう。そして、現在の急速充電器の性能でも休憩中に数百キロ分の充電が可能です。

 

ということで、テスラのバッテリー交換式EVはなぜ失敗したか。

答えは、充電すれば済むから。

 

電気自動車を所有していない人は、数分でフル充電できないと不便とか、一回の充電で500km以上走れないと困ると頭の中で想像していても、実際に電気自動車を所有している人たちは充電すれば済むと考えているようですね。

 

 

 

 

 

Reference;

 

 

ワイン好きの友人が勧めるワインはなぜ不味いのか

グーグルで「ワイン通」と入力して検索をかけると、候補として自動的に「ワイン通 うざい」が出てくるほど、一部のワイン通に対して嫌悪感を抱いている人たちは多いようです。

そして、あまりワインを飲まないワイン初心者からすると、そうしたワイン通の人が勧めてくる凝ったワインは飲んでも別にそれほどおいしくない。最悪の場合スーパーに売ってる安物のワインと何が違うのかわからない。といったことが起こります。

 

なぜこんなことが起こるのか。

この”ワイン通 問題”はどうやら世界共通のようで、海外で様々な検証実験が行われていることがわかりました。

 

 

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実験1 高いワインを飲む意味はあるのか

マジシャンから学者に転向した有名な心理学者リチャード・ワイズマン(Richard Wiseman)が行った次のような実験があります。

まず近所のスーパーで5ドルから50ドルまでの適当なワインを買ってきて、ワインの銘柄を伏せた状態で600人の被験者にテイスティングしてもらいます。被験者にはテイスティングした中でどれが高いワインだと思うかを回答してもらう、という単純な実験です。

実験後、銘柄が分からない状態でワインを飲んだこの600人の全回答を集計すると、全体の53%が実際に高いワインを当てていました。逆に言うと47%の人は外しているのです。これはだいたい半分の確率ですから、コインを投げて裏か表かで回答を決めるのと同じ確率です。言ってしまえば、人は値段が10倍違ってもどれが高いワインか分からないということです。

さらにヒドイことに、対象を赤ワインに限った場合には正解率はたったの39%にまで落ち込んだということです。

 

違いがわからないならなぜ高いワインを飲む必要があるのでしょう。

 

 

実験2 美味しくないものに高いお金を払う意味があるのか

全米ワイン経済学会(American association of wine economists)という団体が行った次のような実験があります。

実験の目的は、ワインの専門家によるアドバイスが一般消費者に対して有効かどうかを検証するというもの。こちらの実験では、被験者6175人に銘柄を伏せた状態でブラインドテイスティングをしてもらい、ワインに対して4段階で味を評価してもらいます。

結果を集計して平均化すると、ワイン専門家は値段の高いワインの方が美味しいと答え、一般の人は値段の高いワインの方が美味しくないと答えた、という集計結果となったのです。

この実験結果から、一般の人は高いワインを必ずしも美味しいとは思っていないことがわかります。

 

高いワインの方が美味しくないなら安い方がいいでしょう。

 

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実験3 赤とか白とか違いはあるのか

フランス、ボルドー第二大学の心理学博士フレデリック・ブロシェ(Frederic Brochet)が行った実験も見逃せません。

博士が行った二つの実験のうち一つ目は、54人のワイン専門家にワインのテイスティングをしてもらうというものですが、まず、何の種も仕掛けもなしに赤ワインと白ワインをテイスティングしてもらい味や香りを表現してもらいます。そして数日後、再び同じようにテイスティングを行いもう一度ワインの味や香りを表現してもらうのですが、今度は同じ白ワインの片方を食紅で赤くすることで、まるで赤と白の別々のワインが用意されているかのように見せかけます。

すると被験者は、先日と同じ表現を使って赤く染まった白ワインをまるで赤ワインを飲んでいるかのように認識したのです。この実験では、一人もそれが赤く染まった白ワインであることを見抜けませんでした。

 

肉には赤ワイン、魚には白ワインが合うとはなんだったのでしょう。

 

実験4 名前に騙されていないか

ブロシェ博士が行ったもう一つの実験は、同じワインを2つのボトルに分けて、片方にはそれが高級なワインであることを示す「グラン・クリュ」のマークが入ったラベルを貼ります。そして、2本のワインを飲み比べてもらうのです。すると先ほどの54人中なんと40人もがグラン・クリュのラベルがついたワインの方を褒めたのです。繰り返しますが、2本のボトルの中身は全く同じワインです。

 

もはやワインそのものではなくボトルが全てなのでしょうか。

 

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実験5 それでも味は違う

カリフォルニア工科大学脳科学の側面からワインに関する実験を行っています。

被験者たちに、5ドルから90ドルの5種類のワインを値段だけを伝えてテイスティングしてもらい、同時に被験者の脳波を測定するというものです。

しかし、この実験には実は一つ仕掛けがあって、5種類のワインが別々の値段を示されて次々出てくるのですが、実はワインは3種類しか用意されておらず実験を通して被験者は同じワインをどこかで2度飲むことになるのです。

ここまで読んできた方は、結果がなんとなく想像つくかもしれません。同じワインでも5ドルだと言われて出てきた場合と90ドルだと言われて出てきた場合では、被験者は90ドルのワイン方が美味しいと答えたのです。中身は5ドルのワインと同じだというのにです。

ではテイスティング中の脳波はどうだったのかというと、前頭皮質の一部が値段に強く反応しており、同じワインでも脳の反応は全く違うものだったのです。

 

結局、脳科学的にも証明されているように人間というのは期待した通りの味を感じるのです。中身が白ワインでも色が赤ければ脳は赤ワインの味を感じるのです。5ドルのワインでも90ドルだと言われれば、さらにボトルに「グラン・クリュ」のラベルが貼ってあれば、いくらでも美味しくなるのです。

 

 

では、ワイン好きは自分に酔っているだけなのかというとそんなことはありません。

ある安いワインと高いワインの比較ですが、安いワインはアメリカのオークの樽で6ヶ月寝かせるのに対して、高いワインはフランスのオークで1年。熟成も1年半に対して6年。広く流通しているブドウの品種を使うのに対して、特定の畑のブドウしか使わない。ボトル本体やコルクも全く質が違います。

高いワインには、ちゃんと高いなりの理由があるのです。

 

 

ワインに従うのか自分に従うのかという問題

最終的にこのワイン問題を解決するヒントは、スパイク・ジョーンズ監督の映画「her」に出てくる男女の会話シーンにありました。

 

男「フルーツは繊維が一番重要。だからフルーツから繊維を取り除いたジュースなんて飲む意味がない。」

女「好きなものを飲むのが一番健康にいい。ジュースが好きならそれを飲むのが一番。」

 

つまりジュースにしろワインにしろ、物事にはいつも二つの見方があってどちらも真実だということです。

ワイン通の人にとって、特定の畑で採れたブドウから作ったワインだけが持つ味わいは重要でしょう。一方、ワイン初心者にとって紙パックに入った500円のワインを美味しいと思うならそれがどんなブドウの品種から造られていようと問題ではないのです。

ワイン自体に価値を見出すか自分自身の感覚に価値を見出すのか、どちらが正解という話ではないということです。

 

 

結局、ワイン通もそうでない人も好きなお酒を一緒に飲んで楽しく過ごせればそれでいいのではないでしょうか。

 

 

 

Reference:

Wired:https://www.wired.com/2011/04/should-we-buy-expensive-wine/

Forbes:https://www.forbes.com/sites/katiebell/2012/07/09/is-there-really-a-taste-difference-between-cheap-and-expensive-wines/#2f4975363ae2

Winefolly:http://winefolly.com/tutorial/truth-cheap-vs-expensive-wine/

なぜ大学を中退すると成功するのか 生存者バイアスとは

先日、街中で大学中退を考えている学生の会話が聞こえてきて、大学中退の実態が少し気になったので調べてみると、2016年の文部科学省の調査では2.11%の学生が大学を中途退学するとありました。2017年の総務省の調査では、日本全国の大学生の数が286万人となっているので、ざっと6万人ほどは大学を中退するようです。

 

そこで思い出すのは、先の学生も話していましたが大学を中退して成功した人たちです。

一番有名なのは、マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツでしょう。世界一の富豪がそもそも大学中退者なのですから、大学なんて出る必要性を感じないのも納得です。

他には、Facebookの創業者マーク・ザッカーバーグやアップルのスティーブ・ジョブズ。起業家以外では、「ターミネーター」「タイタニック」や「アバター」の監督ジェームズ・キャメロン。史上二人しかいない2年連続でアカデミー主演男優賞を受賞した俳優トム・ハンクスなどなど。様々な分野で世界の頂点に立っている人たちが大学を中退しているので、なおさら大学が無意味に思えます。

東京大学

 

 

しかし本当にそうでしょうか。

ここで気をつけたいのは、サバイバーシップ バイアス(Survivorship Bias)と呼ばれるものです。生存バイアスとか生存者バイアスとか様々な呼ばれ方がありますが、物事を見る時に常に意識しておきたい考え方です。

 

 

撃墜されない飛行機の条件

最も有名な例は、第二次世界大戦のヨーロッパ戦線の話です。アメリカ、イギリスを中心とする連合国側はドイツ軍の攻撃により航空機が相次いで撃墜されてしまい手を焼いていました。軍部は航空機の装甲を厚くして対処しようとしましたが、機体が重くなりすぎてしまうため機体全体の装甲を厚くすることはできません。

この問題を解決するため、ある組織に白羽の矢が立ちました。

第二次大戦中ニューヨークのハーバード大学横に置かれていたSRG(Statistical Reserch Group)と呼ばれる組織で、全米から研究者たちが集められて統計学の側面から戦争を戦っていました。のちにノーベル経済学賞を受賞するミルトン・フリードマンですら、この中では4番目に頭がいい男とされるほどの天才集団です。その中で、一番頭がいいと言われていたのがエイブラハム・ワルドという人物。ルーマニア出身のユダヤ人であるため、ナチスを逃れてアメリカに亡命した数学者でした。

 

軍部からの指示は、このまま航空機の装甲を増やさないと人命がどんどん失われるが、航空機が重くなりすぎて敵の格好の的になるのも困るから、適切な装甲を導き出せというものです。

爆撃機

 

軍は、戦場から帰還した航空機の分析を行っており敵の攻撃が被弾する場所には偏りがあることがわかっていました。

一番被弾が多いのは機体胴体部、次いで燃料システム、一番少ないのがエンジンです。胴体部は単位面積あたりでエンジンの1.5倍ほども弾丸を受けているというのです。

つまり、全体の装甲を増やせない以上、同じ面積の装甲で1.5倍も攻撃を防げる胴体部の装甲を増やすのが一番効率的という結論になります。

 

ところが、これが典型的な生存者バイアスの一例で、大間違いなのです。

反対にワルドの主張は、装甲が必要なのは被弾が最も少ないエンジン部だというものでした。

間違いは、戦場から帰還した機体のデータしか見なかったことにあります。無事帰還した航空機が攻撃を受けている箇所は、攻撃を受けても平気なのです。撃墜されて帰還できなかった航空機が被弾している箇所こそ補強が必要なのです。それは、帰還した機体が攻撃されていない箇所ということになります。なにしろ、そこを攻撃されれば帰還できないのですから。

まさに生存者だけを見て判断すると誤るという一例です。

 

 

猫は高いところから落ちた方が助かりやすい

もう一つの例は、ニューヨークでビルから転落した猫の怪我の分析結果という話です。

猫がビルから落ちて怪我をする場合、7階より上から転落した方が6階から転落するより軽症で済むというのです。7階より上になると猫が着地の準備をする時間ができるので結果的に軽症で済むという理由付けがされました。もっともらしい説明ですが、もちろんこれも生存者バイアスが原因です。そもそもニューヨークのタワーマンションの高層階から落ちた猫は助からないので、病院に運ばれることはなく初めからデータには現れません。生存者だけから判断してはいけないのです。

 

 

中退した成功者も生存者

さて、大学を中退した人が沢山いるように思える成功者たちも、もちろん生存者です。

ビル・ゲイツとは反対に、大学を中退して鳴かず飛ばずの人生を送った人が数え切れないほどいるのです。実際、様々な調査で最終学歴は生涯年収に大きな影響があることがわかっています。生存者だけでなく全員のデータを見れば明らかに大学は卒業したほうが収入が多いのです。

もちろん、収入が多いことや社会的に成功していることと幸せかどうかは別問題ではあるのですが。

 

 

 

さて、ビル・ゲイツはハーバード大学の卒業式でスピーチを頼まれ冗談交じりに以下のように言っています。

「卒業式のスピーチを頼まれてよかった。もし私が入学式のスピーチをしていたら、ほとんどの学生が大学を辞めていただろうね。」

 

日常に溢れる生存者バイアスには要注意です。

 

 
 
Reference;
 
 

ヒートアイランドに対する一つの答え ベルリンのスポンジシティ

近年は毎年のように異常気象が叫ばれ、日本では夏になると最高気温更新のニュースを頻繁に聴いている気がします。
自然が少なく、アスファルトやコンクリートなどの人工物が多い都市部に熱がこもるヒートアイランド現象という言葉もすっかり世間に浸透しました。
 
 
そんな都市部の気温上昇に対する解決策として、ドイツの首都ベルリンではその名もスポンジシティという都市設計コンセプトを取り入れているそうです。
Bloombergが解説しています。

youtu.be

 

そもそも都市には自然なものが少なく、人工的なものは熱を蓄えたり雨水をはじき返してしまいます。
スポンジシティの基本コンセプトは、雨水を都市の中に蓄えること。そしてその雨水が蒸発することで都市が冷やされるという仕組みです。
都市計画担当者は、雨水は資源であって捨てるものではないと主張しています。
 
もともと自然界を見てみれば、地上に降った雨は土や植物に蓄えられてその多くは地下水として地中深くには浸透せずに蒸発をします。そして蒸発する際に周辺が冷やされるのです。
反対に都市では、コンクリートが雨水を弾き、そのまま水は下水道に逃げていってしまいます。
スポンジシティのコンセプトは、まさに自然界の仕組みを真似して雨水を都市から逃さないようにするというものなのです。

スポンジシティ

 
 
 
ベルリン市内のルンメルスブルグはまさにスポンジシティの好例です。
建物の屋根には6-8cmの土と植物があり、降った雨水はそこから中庭へと流れ込みます。
また地上には80cmの土の層が用意されており雨水を蓄えられるようになっています。そこに植えられた植物が貯められた水を使い、その水が蒸発することで周辺を冷やします。夏には明らかに涼しいことが実感できるほどの自然のクーラーとして機能しているそうです。
そして驚くべきことに、この地区では雨水を流す下水管すら存在しないのだそうです。歩道に降った雨水は、そのまま脇のスペースにある土に流れ込み蓄えられるという徹底ぶりです。
 
 
もちろん、完璧ではありません。
ベルリンは記録的大雨が降った際に街が水浸しになり、今後開発される建物には洪水対策としての雨水用下水管設置が義務付けられました。しかし、スポンジシティのコンセプトは生きています。
ベルリンは地球温暖化による異常気象に対しても、力で対抗するのではなく自然と共存する街づくりを進めているのです。
 
  
 

キアヌ・リーブス不老不死説

以前「お金は優先順位の中で一番低いよ。今まで稼いだお金で数百年は暮らしていけるからね。」と語っていたキアヌ・リーブス
ところでこの”数百年暮らしていける”というのは単なる比喩表現ではなく本気である可能性が海外のファンの間で指摘されています。
 
そもそも我々の知っているキアヌは90年代に世界的に有名になってから、50歳代になった今まで見た目がほとんど変わっていません。これだけでも驚くべきことですが、なんと彼の数百年前の姿を描いた絵画や写真があるというのです。
 
 
下に紹介しましょう。
 
 
 
 
 
 
 

キアヌリーブス

 
その2

キアヌリーブス

By Rigi to Rigi (Own work) [CC BY-SA 3.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0)], via Wikimedia Commons
 
 
 
1500年代のキアヌ・リーブス

キアヌリーブス

 
 
 
どうやら噂は本当のようですね。キアヌが全く老けない理由がわかりました。
 
 
 
 

キアヌ・リーブスが「スピード2」に出演しなかった理由

日本のラーメン屋での目撃情報も多いハリウッドスターのキアヌ・リーブス。
アメリカのTV番組「Jimmy Kimmel Live」で彼がスピード2に出演しなかった理由を語っていました。

 

 

この日も日本から戻ってきたばかりだというキアヌ。日本によく行くという話から日本で人気のある彼の出演映画の話になり、話題は「スピード」へ。
「スピード」には続編があったのに君は出演しなかったね、と聞かれ、出演するはずだったんだけど断ったよ、と答えたキアヌ。
監督のヤン・デボンやサンドラ・ブロックと仕事をするのは大好きだけど、脚本を読んだらね。内容はクルーズ船の話で、”クルーズ船”と”スピード”について頭の中で考えたんだ。”バス”、”クルーズ船”、”スピード”、”バスはそれほどスピードが出ない”、”クルーズ船はもっとスピードが出ない”。
だから彼らは大好きだけど断ったんだ、と語っています。
 
 
言われてみれば、「スピード2」というタイトルなのに舞台が海をゆっくり進むクルーズ船なのは、企画段階でどこか外してますね。
実際映画はキアヌが出演した第1作には遠く及ばない興行成績だったようです。キアヌ・リーブスの直感は当たったようですね。