カスタマイズできるスマホ Project Ara モジュラーフォンはなぜ消えたか
ポケットの中に収まるコンピュータであるスマートフォン。総務省のデータによると2016年の時点で世帯保有率は70%を超えており、パソコンや固定電話と同じ水準の普及率に達しているようです。
もはや当たり前になり人々の生活になくてはならない存在になったスマホですが、パソコンのように中のパーツは変えられませんし、固定電話と違って毎年性能の上がった新モデルが発売されるため、2年おきにスマホ本体を買い換えている人も少なくありません。
アプリのようにハードウェアもあとから欲しい機能だけアップデート出来ないものでしょうか。
実はこの問題に取り組んだ企業がいました。
モジュラーフォン
いくつかの企業は、スマホの部品を取り替えられる設計を取り入れた機種を開発していました。
バッテリーの容量を増やしたい人は標準バッテリーを大容量タイプに取り替えればいいし、高画質のカメラが欲しい人はカメラを入れ替えればいいのです。
このコンセプトはそれぞれ独立して機能するモジュールでスマホが構成されているため、モジュラーフォンと呼ばれました。
モジュラーフォンのコンセプト By Dave Hakkens (Provided by email) [CC BY-SA 3.0 (https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0)], via Wikimedia Commons
代表的な例はGoogleのProject Araです。
同じアイデアはモトローラもMotoZで、LGはG5といったモデルで展開しています。
しかし、今街でこれらのスマホを持っている人は見かけません。GoogleのProject Araを筆頭にモジュラーフォンが市場から消えようとしているのはなぜでしょうか。
理由が「TechAltar」で分析されています。
モジュラーフォンの利点を考えてみると以下の5つが考えられます。
1.機能拡張性
2.製品寿命延長
3.カスタマイズ
4.コスト削減
5.修理性
それぞれ順番に分析してみましょう。
機能拡張性
音楽を聴きたい時はスマホに高音質スピーカーをつける。カメラとして使いたい時はズームレンズを取りつける。これらシチュエーションに応じてスマホに機能拡張性をもたらす点が、モジュラーフォンを開発していた各社が一番力を入れて宣伝していたポイントでした。
しかし、そもそもモジュールがなくてもスマホの機能拡張はできます。
音楽を聴く時はブルートゥーススピーカーを使えばいいし、外付けバッテリーで長時間使用が可能になります。
また360度カメラなど特殊な機能は、そもそもスマホの一部である必要性があまりありません。それらはUSBやブルートゥースでつながる製品なら、モジュラーフォン以外にもつなげられる上に価格はモジュラーフォン専用品と変わらないのです。
製品寿命
デスクトップパソコンと同じように、構成部品を取り替えられるのはいいアイデアのように思えます。しかし、スマホではコンパクトである必要があるために、コア機能のCPUやメインボードは取り替えられません。
よって根本的には製品寿命も延びません。
カスタマイズ
これについては歴史が何度も証明しているように、ほとんどの消費者はカスタマイズ性など気にしていないのです。むしろ人々は他人と同じものを欲しがっていますし、大抵の人はパソコンの壁紙ですら初期設定から変えもしないのです。
実際、モジュラーフォン以外にも過去にカラーリングなどのカスタマイズはいくつかの企業によって試されましたが、成功していません。
カスタマイゼーションはあくまでニッチな存在なのです。
コスト削減
スマホを構成する部品に標準品というものが使えればコストが削減できる可能性があります。しかし、モジュラーフォンは構造上、モジュールに追加のコネクタやスライド機構や磁石が必要になるので、むしろコストは上がる方向になってしまいます。
修理性
他の点より、説得力があります。画面が割れたら取り替えればいい、バッテリーが弱ったら取り替えればいい。魅力的ではないでしょうか。
しかし、GoogleもMotorolaもLGもモジュラーフォンでこの点にはそれほどフォーカスしていませんでした。
ということで、一般人がモジュラーフォンを欲しがる理由は見当たりません。ごちゃごちゃして分厚く値段も高い上に、大した利点はないからです。人々が欲しがるのは洗練されたデザインや高級な素材のスマートフォンなのです。
GoogleでProject Araの設計責任者だったRafa Camargo氏も、以下のように述べています。
「市場調査の結果、ユーザーはすべての機能が最初から付いていて、いつでも機能することを望んでいるという事が分かった。」
GoogleがProject Araを終了させたのは、当然と言えるでしょう。
供給者の視点
企業側の視点に立って見ても、業界の流れを変えられるようなメジャープレイヤーであるアップルやサムスンにモジュラーフォンを導入する利点は見当たりません。数千円のモジュールが売れるより、2年に一度10万円するスマートフォンを買い換えてくれる方がずっといいです。
逆に挑戦者であるモトローラやLGは、サードパーティの巻き込みが十分できずに、モジュラーフォンはプラットフォームとして自立するに至りませんでした。
モジュラーフォンの失敗はかつて海外で日本のオーディオ機器を皮肉ったレビューがされていたのを思い出させます。
日本のオーディオ機器には、やたらと青色LEDや小さいつまみやボタンが並んでいるが、2ヶ月かけてそれらをすべて調整した結果、結局ヨーロッパ製のオーディオ機器と同じ音質になる、という内容です。
つまり、ほとんどの消費者にとって細かい設定やカスタマイズは、嬉しい追加機能というよりは煩わしい存在なだけで、自分で調整などしなくてもすぐに使える状態で売って欲しいわけです。
モジュラーフォンはスマホの世界に革命を起こす事はできませんでした。もうしばらくは、アップルとサムスンが世界のスマホ市場での勝ち組という構図が続きそうです。
Reference;
総務省:http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h29/html/nc262110.html