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サラリーマンがネットで見つけたネタに対する感想

電気自動車が大気汚染問題を解決しない理由

現在世界の新興国の都市部で問題となっているのが深刻な大気汚染です。

特に中国の北京やインドのデリーなど大都市では、数メートル先が見えないほど空気が汚い日もあるといいます。

このような大気汚染の原因の一つとしてあげられているのが車の排気ガスです。旧式の自動車から排出される有害な微粒子はその大きさからPM2.5やPM10などと呼ばれていて、こうした微細な粒子が空気中に放出されて大気を汚染しているのです。

北京大気汚染

北京の大気汚染 By Berserkerus (Foto) [GFDL (http://www.gnu.org/copyleft/fdl.html), CC-BY-SA-3.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/)  via Wikimedia Commons

 

 

この問題に対する解決策として、現在中国やインドに限らず世界の先進国も推進しているのが電気自動車(EV)です。

電気自動車はゼロ・エミッション・ビークル(ZEV:Zero Emission Vechile)直訳すると排出ゼロの乗り物とも呼ばれ、大気汚染対策の救世主と位置付けられているわけです。

確かに、ガソリン車やディーゼル車が化石燃料を燃やして排気ガスを出しながら走るのに対して、EVは電気モーターを動力源とするため車からは排気ガスが出ません。電気を作るのに化石燃料を発電所で燃やす必要がありますが、少なくとも人口が集中する都市部のど真ん中には排気ガスが出ないわけですから、各国政府はEVの普及を推進することで大気汚染対策にしようという狙いがあるわけです。

  

ところが、車という乗り物は排気ガス以外にも空気を汚しながら走っているという事実はあまり注目されていません。

イギリスのエジンバラ大学とオランダのINNSAというエンジニアリング会社が共同で自動車による大気汚染を研究した内容を発表しています。

 

 

排気ガスだけではない大気汚染源

まず車はもちろん排気ガスからPMを排出しますが、他にもタイヤの磨耗、ブレーキのダスト、道路の磨耗、道路に落ちたPMを舞い上げる、といった要素でも大気を汚しています。

 

排気ガスから主に排出されるのが、ガンの発生原因としても指摘されているPM2.5。それに対してタイヤ摩耗などの非排気ガスはPM2.5だけではなくPM10を多く含んでいます。PM10は主にスズ、銅、鉄、鉛などの重金属となっており、こちらも肺炎や遺伝子に損傷を与えるなどの健康被害の原因とされています。

つまり、排気ガス以外の要素でも自動車は大いに大気を汚染しているのです。

そして一番問題なのは、車から排出されているPMのうちPM2.5の85%、PM10の90%は非排気ガスが占めているという点です。つまり、そもそも自動車の排気ガスが出すPMは車が出すPMのうちのごく少量に過ぎないのです。

 

そして、非排気ガス系の大気汚染の発生量は車両の重量に大きく依存している点に注意が必要です。

例えばタイヤと路面の摩擦は重量が重い車の方が大きくなるため、タイヤや路面がすり減る量も車の重量が重ければその分だけ多くなります。また、ブレーキもブレーキパッドとタイヤホイールの摩擦を利用しているため、重量が重く運動エネルギーが大きい車の方が摩擦が大きくなりブレーキダストの量も増えます。道路に落ちたPMをより多く舞い上げるのも重い車です。

例えば、車体重量1200[kg]の小型車に対して1600[kg]の中型車は、タイヤ、ブレーキ、路面摩耗が50%も増加するとされます。さらに、2000[kg]の大型車になるとその量は小型車の倍にもなるといいます。

 

 

EVは重い

ここまで読んできた方はもうお気づきでしょう。EVの問題は、大量のバッテリーを積む必要があるためガソリン車やディーゼル車よりも車体が重くなる点です。

 

どれくらい重いのか、ここでは公平を期すために同じメーカーの同じ車種でガソリン車と電気自動車の2つのバージョンがラインナップされている車種に注目してみます。

まずは、ホンダのフィットです。ガソリン車の他に一時期米国でフィットEVというモデルが存在しました。フィットのガソリン版は車体重量1215[kg]に対して、フィットEVは1550[kg]もありました。その差300[kg]以上。割合で言えばEVの方が、27%も重たいのです。

他のメーカーの他の車種にも基本は同じことが言えます。ガソリン版のフィアット500に対してそのEV版である500eが24%重量増。スマートに対してスマートElectric Driveが29%増。シボレースパークに対してスパークEVが28%増。

その他、フォード、キア、フォルクスワーゲン、ルノーなどの車種も含めると平均でEVはガソリン車よりも280[kg]、24%も重いというのです。

Fit EV

ガソリン版より300kg重いフィットEV By bigbend700 [CC BY 2.0 (http://creativecommons.org/licenses/by/2.0)], via Wikimedia Commons

 

 

結論から言えば、この重量のせいでEVから排気ガスが出ないという利点は全て食い潰されます。

エジンバラ大学とINNSAによると電気自動車、ガソリン車、ディーゼル車が出すPMの量は次のように結論づけられています。

 

< 1km走行あたりのPM2.5発生量 >

  • 電気自動車 : 65.7[mg]
  • ガソリン車 : 66.0[mg]
  • ディーゼル車 : 65.3[mg]

 

< 1km走行あたりのPM10発生量 >

  • 電気自動車 : 22.4[mg]
  • ガソリン車 : 23.2[mg]
  • ディーゼル車 : 22.6[mg]

 

 

かつては黒い煙を出しながら走るというイメージだったディーゼル車も最新式のクリーンディーゼルモデルでは、DPF(Diesel Particulate Filter)と呼ばれるPM除去技術により99%以上のPMを取り除くことが出来るようになっています。

結果的に電気自動車とガソリンやディーゼル車を比較しても、PM2.5に関しては減らない。PM10が1-3%程度の減少ということで、PMに限って話せば電気自動車が大気汚染を改善するというシナリオには無理があります。

DPF

ディーゼルの排気ガスを劇的に改善したDPF

 

 

もちろん、以前当ブログでも紹介した通りEVによるCO2の削減は期待できますので、地球温暖化対策としてEVの普及を図るのは有効に思えます。

しかし、都市部の大気汚染に対しては最新式のガソリン車やディーゼル車を導入すれば、EVと同レベルの大気汚染対策になり得ることがわかります。ましてや、航続距離を伸ばすためにバッテリーの容量を増やしてますます車体重量が増えているEVは、都市部の大気汚染対策の救世主であるという考え方を改める必要があるかもしれません。

 

 

 

 

Reference;

Non-exhaust PM emission from electric vehicles : http://www.soliftec.com/NonExhaust%20PMs.pdf