I found this

サラリーマンがネットで見つけたネタに対する感想

なぜ歳をとると思い出話や若かった頃の昔話ばかりするのか

会社の上司だったり、バイト先の先輩だったり、習い事のクラスメイトだったり、いずれかの機会にいわゆるオジサンやオバサンと呼ばれる層の人たちと話す機会がある人は多いでしょう。もしくは、自分がオジサンやオバサンに当たる人もいるでしょう。こうした人達はよく自分が若かった頃の話をまるで昨日のことかのように話します。とっくの昔に社会人になっているのに、ずっと学生時代の話をしている人も珍しくありません。

これは不思議な気がしないでしょうか。人の記憶というのは、時間が経てば経つほど曖昧になるものです。1分前の出来事より1日前の出来事の方が記憶が曖昧ですし、1日前より1週間前の出来事はもっと記憶が曖昧です。

このように人間の記憶というのは最近のことをよく覚えていて昔のことはよく思い出せないと考えがちですが、実際のところそうとは限らないようです。

 

思い出のピーク 

1980年代にのちに心理学博士となる当時はまだ学生だったScott Wetzlerという人物がある実験を行います。

それは、人の記憶は本当に最近のことをよく覚えていて昔のことは良く覚えていないのかという調査でした。実験は年配の被験者に対してよく憶えている思い出の数を年齢毎に数えてもらうというものです。結果は当然最近の出来事をよく憶えているというものでしたが、驚くべきことに自身が20代の時の方がその他の年代の時よりも憶えている思い出の数が多いということも分かりました。

他にも1999年に学術誌Journal of Adult Developmentに発表された論文では、20代の思い出がもっとも記憶に残っているだけでなく、記憶に残っている社会的な出来事もまた10代20代に起きたことの方が自身がもっと歳をとってから起こった出来事よりも良く憶えていることが確認されています。

 

思い出のピーク

20歳頃思い出の数がピークになる

 

そして心理学者はこの現象を「Reminiscence Bump」(レミニセンスバンプ)と呼んでいます。

 

レミニセンスバンプが起こる原因

若い時の記憶の方が鮮明な理由は、初めての体験が多いからだといいます。

学校に行き始め、恋愛、就職、結婚、子供を持つといった人生におけるターニングポイントの半分以上がおおよそ15歳から30歳頃までに起こるのが、大多数の人のいわゆる”普通”の人生です。そしてこの時期に出会った人から一生の友人ができ、この時期に選んだ仕事を一生続けるのです。一方多くの人は50歳にもなれば、家も職場も新鮮味はなくなって安定した生活を送っていることでしょう。学生時代に初めて友人と旅行した記憶は、毎週同じ議題を話している会社の会議よりも鮮明に憶えているはずです。

脳科学の観点からも、初めて起こったことは日常的に起きていることよりも記憶に残りやすいと考えられています。1988年に行われたある研究では、人生で起こった大きな出来事の記憶のうち実に90%以上は人生で初めて起こったことだとされています。

 

イギリスのリーズ大学が行なった研究では自身のアイデンティティ形成が20代に作られるためであるという説を証明しています。

10代や20代に多くの人は自分が何者であるかというアイデンティティが形成されます。学生時代に経験したことは良い意味でも悪い意味でもその後の人生に大きな影響を与えるものです。

実験では、被験者はまず20個「私はxxxである」というセルフイメージを書き出します。そしてその中から3つを選びそれぞれについて10個の思い出を書き出してもらいました。最後に、先ほど選んだ3つのセルフイメージが作られた年齢が何歳だったかを書き出してもらいます。

実験の結果、セルフイメージに関する大半の思い出とセルフイメージそのものが作られた年齢がほぼ一致したのです。つまり、自身のアイデンティティ形成に関わった思い出は強く記憶されているということなのです。そして、この実験ではアイデンティティが形成された年齢の平均値は22.9歳でした。そのため20代の思い出は歳を取ってからも鮮明に憶えているのです。

思い出

 

しかし、脳科学や記憶のメカニズムだけでレミニセンスバンプは説明しきれないこともわかっています。

2010年に、デンマークで10歳から14歳の子供たちに将来の人生をストーリーとして書いてもらったところ、大半の出来事が20歳代頃に起こっていたのです。この現象は「Life Scripts」つまり人生の台本と呼ばれているものです。

なぜ自分は今のような自分になったのか、そして将来どうなるのか台本を持っているという考え方です。そして人は無意識のうちにこの台本に影響されて日々人生における重要な決断をしているというのです。足の遅い子供は短距離走でオリンピックに出場する台本は作りません。自分の人生で何が可能で何が不可能かを決めてしまうのです。これは親や友達や社会そして文化の影響を受けて子供の頃に作り始められるため、子供の時すでに人生の重大な出来事が何歳頃に起きるか潜在意識に植え付けられてしまっているというわけです。これは歳を取ってからも同じで、人生の重大な出来事は何だったかと聞かれると台本上で重要な出来事が起こる20代を取り上げるというのです。

 

レミニセンスバンプは他にも意外な場所にも現れています。アメリカのラトガース大学が行った研究では映画のリメイクやリブートは平均してオリジナルの20年後に行われるとされています。

映画の製作に影響力がある人は40歳代であり、40歳代の人にとって20年前が人生に最も影響を与えた時期であるために、その時代をテーマにした映画が繰り返し製作されているというわけです。

 

  

さて、人生100年時代と言われる昨今、人生は一つのストーリーではなくなりつつあります。人生の途中でそれまでとは全く違う生活を始める人が増えてくると人生における記憶のあり方も今までとは変わってしまうのかもしれません。 

 

 

 

Reference;

Slate:https://slate.com/technology/2013/01/reminiscence-bump-explanations-why-we-remember-young-adulthood-better-than-any-other-age.html

Curiosity:https://curiosity.com/topics/the-reminiscence-bump-is-why-you-pine-for-the-days-of-your-youth-curiosity/

PsychologyToday:https://www.psychologytoday.com/intl/blog/cusp/201210/the-reminiscence-bump

Changing Minds:http://changingminds.org/explanations/models/life_scripts.htm