なぜヨーロッパには高層ビルが少ないのか
都市部において高層ビルの建設ラッシュが続く日本ですが、不動産情報会社のEmporisは高さ100mを超えるビルの数を世界の都市毎にランキングしています。
ランキングを見てみると圧倒的世界1位は香港で1400棟以上の高層ビルがあり、2位ニューヨークの倍近い数です。以下3位が香港のすぐ北に位置する中国の深セン、4位東京、5位シンガポールと続きます。
ここでランキングを見て気がつくのは、なんとヨーロッパの都市はトップ100の中にモスクワとロンドン、フランクフルトの3都市しかランクインしていないということです。
トップ100の内訳を見ると実に60以上の都市がアジアであり高層ビルの多さが際立ちます。
例えばどちらも人口約250万人であるイギリス第二の都市バーミンガムは北朝鮮の平壌よりも高層ビルが少ないのです。
北米もアジアに負けていません、人口が40万人にも満たないハワイのホノルルには、人口900万人近いロンドンよりも多くの高層ビルがあります。
また、アメリカのシカゴは人口270万人に対して300棟、カナダのトロントは人口260万人に対して250棟の高層ビルがあり、人口あたりの高層ビル数が世界一多い都市になっています。一方ヨーロッパでほぼ人口が同じ規模であるイタリアのローマには高層ビルは4棟しかなく、市内の宮殿7箇所、寺院8箇所よりも高層ビルの数は少ないのです。
ローマのような大都市における高層ビルの少なさに代表されるように、ヨーロッパの高層ビルはイギリスのロンドン、ドイツのフランクフルト、フランスのパリの3都市に集中しています。
なぜヨーロッパには高層ビルが少ないのでしょうか。
高層ビルが少ない理由
理由の一つは、都市の歴史の長さです。ヨーロッパの都市の多くは19世紀にシカゴで鉄骨を使った世界最初の高層ビルが建設されるはるか前にすでに完成されており、街の中心に新たに高層ビルを建設するスペースがなかったのです。
また、アメリカに比べてヨーロッパの都市は広い範囲に均等に広がっており、当時のシカゴやニューヨークのように狭い地域にフロアを何層も重ねた建物を建設する必要性もあまりありませんでした。
それに加えて、新しい技術を取り入れて徐々に大国になっていったアメリカに対して伝統的な考え方が根強いヨーロッパは高層ビルを受け入れなかったという側面も指摘されています。
しかし、これらは高層ビル登場初期の話です。100年以上経過した今もなぜヨーロッパには高層ビルが少ないのでしょうか。
一つの転機は第二次世界大戦です。大戦で破壊されたヨーロッパの都市はアメリカのように高層ビルを使って再構築されるという見方がありました。しかし、ランドマークが破壊されてしまったヨーロッパの都市は、新しいものを建てるのではなく、戦争で失われた建物を再建するという道を選びます。
またヨーロッパの都市の人口は比較的少なく、ここでもまた高層ビルを建設する必要性が薄かったのです。
もう一つの理由が、ベルギーのブリュッセルで始まった建築規制です。1960年代にブリュッセル市内で歴史的景観などを無視した無機質な箱型の建物が立ち始めると、行政は規制を導入して大きな建物の建設を禁止し新しい建物にも歴史的な装飾などを施さなければいけなくなりました。こうした規制はヨーロッパに広がり高層ビルが建てられなくなったり、高層ビルがあってもパリのLa DefenceやロンドンのCanary Wharfなどのようにシティセンターから離れた地区に集中的に建てられることとなりました。
21世期に入ると建築技術の発展から箱型ではなくユニークな型をした高層ビルが建築可能になったことや、ロンドンなどの金融都市でオフィス需要が高まったために高層ビルが次々に建設されています。世界の人口はますます都市に流入しているため、こうした国際都市を中心にヨーロッパでも高層ビルは今後も増え続けることになるでしょう。
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